軽妙なタッチで、どこかユーモアが漂う。
描かれるのはキム・ミニ演じるマニを中心とした男女の人間関係である。本作はホン・サンス監督によって、パク・チャヌク監督作『お嬢さん』出演のキム・ミニとポール・ヴァーホーヴェン監督作『エル ELLE』出演のイザベル・ユペールの女優とともに2016年のカンヌ国際映画祭の開催中に撮影された。

“純粋、”正直”、”素直”。
大人の男女関係はいつも難しい。
自分に”素直”であれ、”正直”であれ、とはよく聞くフレーズである。しかし沢山の人が生きる中で、自分にとって正直な行動は他の誰かにとっては違う。何が正解で何が不正解なのか…??しかし恋愛において正解不正解は通用しないのではないか…?云々。
ホン・サンスの描く個人的なストーリーには普遍性があり、鑑賞後そんな考えが私の頭をぐるぐると回る。

映画を観ていると、世界は理屈ではなくひとりひとりの感情で動いていると気付かされる。

当人たちは気が付かないところでそれぞれの思いが交錯する。直面する本人達にとっては大ごとでも、他者からみるとなんともいえない不思議さや面白さを感じてしまうのがこの映画である。登場人物たち全員がとてもチャーミングなのもその面白さを感じる大きな理由であろう。
例えば会社をクビにされ途方に暮れている主人公のマニ。長身で細身な外見が魅力的なのは勿論、しっかりしていて後輩にも慕われる一方でどこか脆さも感じさせる雰囲気を纏っている。
さらにチョン・ジニョン演じるソ監督は、酒飲みで女好き。観ていてどうしようもないがどこか憎めない男だ。
そしてチャン・ミヒ演じる女社長も、会社を経営する重要な立場でありながら彼女自身の感情で物事を判断してしまうところに人間らしさを感じる。ソ監督と2人でいるときの彼女はまるで少女。

 さらに、この映画に重要な人物はイザベル・ユペール演じるクレアである。

クレアのどこか超然として知的で毅然とした態度はとても魅力的で、彼女の独特な考えや言葉に説得感を持たせている。クレアは3人と偶然関わりを持つものの、そっと寄り添いつつ写真を撮ることを介して第三者であり続ける。彼女の登場後、映画のカメラは彼女の目線でマニ達を追っていることに気が付くだろう。


「物事の方法を変える唯一の方法だから」「写真は後でゆっくり見直せるわ」
そうクレアは言い、写真を撮る。
物事はすぐには変わらないだろう。
でも時間がたって振り返った時、その変化が分かる。
写真は、いまその瞬間を切り取ることの出来るものであり、そして撮ることで物事に変化を生み出すことが出来る。彼女の言ったのはそういう意味なのではないか。

ぜひくすっと笑ってしまうような、いとおしい映画を観に劇場へ。

『クレアのカメラ』は7月14日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー。また、ホン・サンス×キム・ミニの作品が『クレアのカメラ』を含めて全部で4本公開される。
『それから』6月9日(土)より
『夜の浜辺でひとり』6月16日(土)より
『正しい日 間違えた日』6月30日(土)より
『クレアのカメラ』7月14日(土)より
ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

『クレアのカメラ』
(2017年/韓国/69分/ビスタ/5.1ch/カラー/英題:Claire’s Camera)

監督・脚本:ホン・サンス
出演:キム・ミニ、イザベル・ユペール、チャン・ミヒ、チョン・ジニョン、ユン・ヒソン、イ・ワンミン、カン・テウ、マーク・ペランソン、シャヒア・ファーミー
配給:クレストインターナショナル
(c)2017 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.
公式サイト:http://crest-inter.co.jp/sorekara/crea/

 

永山桃
早稲田大学4年生。二階堂ふみさんと、池脇千鶴さんと、田中絹代さんが好きです。映画に一生関わって生きていきたいです。

あとは、猫が好きなのに、柴犬をかっています。ワンワン!