東京国際映画祭2日目。本日はコンペティション部門で上映されるイタリア映画『ネヴィア』を紹介する。

物語の主人公ネヴィアは、妹のエンツァ、叔母のルチア、祖母のナナとナポリ郊外に暮らしている。暮らし向きは悪く、男性が仕切る社会の中で小さな違法商売をしながら、なんとか生活をやりくりしている。

ネヴィアは17歳。イタリアでは18歳が成人だが、日本では多くが学校に行き、家の中でもまだまだ子供という年だろう。しかしネヴィアは学校へは行っていない。朝起きるとまず妹を学校へ送る。友達からの遊びの誘いにものらない。祖母らが違法な商売をしている様子を横に見ながらも、なんとか妹と共にこの状況を抜け出そうと、自ら知恵を凝らして稼ぎを得ようとする。そんな姿は、まだ親に頼りっきりの私からすると非常に大人びて見える。しかしその反面、時折見せる母親の愛情を求める姿は、やはり子供らしく、胸を打つものがある。

しかし、そんなネヴィアと祖母達との関係は好ましいとは言えない。ネヴィアは、自分や妹の人生を全く考えていない男性たちや、与えられた環境に甘んじて生きている祖母らに反発する。祖母らも彼女の聞き分けの悪さを嫌い、「まだ子供」と言い放つ。

そうした中、ネヴィアと妹のエンツァはちょうど町に訪れていたサーカス団と出会う。それはこれまでの閉鎖的な空間にはなかった新しい光をネヴィアの生活にもたらした。 サーカス団の家族や動物たちと向き合うとき、ネヴィアは「大人」「子供」の枠を超えて自分自身を生きることができ、これまでになかった喜びや驚きと向き合っていく。

こうしてサーカスに希望を見出すネヴィアだったが、ある出来事をきっかけに彼女を取り巻く世界は一変する。それは、映画を観ている私たちにとっても、まるで違う国の映画を観ているようであった。

新しい世界の中で18歳を迎えるナヴィア。周囲から与えられた環境の中で、ネヴィアは、自分自身と自分の人生を取り戻そうとする。

社会の主流から取り残された世界でも、少女は子供から大人へと成長する。そんな変化を描いた物語を主人公の芯の強さと美しさが貫く本作。 上映後の会見では、監督・脚本を務めたヌンツィア・デ・ステファノと主演のヴィルジニア・アピチェラが登壇した。

ステファノ監督自身、映画の舞台となった地の出身だが、1980年の大地震で被災し、仮設住宅で10年間暮らしたことが本作の下敷きとなっている。監督は脚本を書く際の心境について次のように述べた。 「自分たち自身を表現するというのは難しいことなので、苦しい思いをしましたし、自己分析をするハメにもなりました。幼少期の思い出を辿ったりして色んなものが自分の中に湧き出てきました。」

台詞も人物も、監督が実際にこれまでの人生の中で見聞きしたリアルなものだった。 本作は、こうした環境の中で監督が目にしてきた「タブー」にも切り込んでいる。 「男性主体の世界、男性が女の子の相手を見つける、そういうことが言われるわけですが、そういったいったものから抜け出さなければいけない、そういう女性の気持ちを描きたかった」監督は言う。

しかしそれでも、「それ(監督自身の経験)から離れるように描いた。」と監督は言う。これは現代を生きる17歳の少女の変化の物語なのだ。

そんな彼女が3か月にも及ぶキャスティングで少年院まで巡って、最終的に主演に抜擢したのは、演技経験のない当時21歳だったアピチェラだった。監督は彼女に、「自分と似たような強さ」や「真実」を見出したという。「それこそ自分が探していたもので、プロの役者はもっていないものだった。」

アピチェラも、「彼女が自分の環境から抜け出さなければならないという感情も、自分の中にあるもので、監督のヌンツィアの中にもあるもので、それが非常に強いものだったので、この仕事ができた。」という。「それぞれが自分の人物を感じることのできるように努め、人物像の中に自分たちの中の真実を盛り込むように作っていき、人物たちに柔軟性が生まれるような形で仕事をしていきました。」

 

ステファノ監督は、イタリアを代表する監督マッテオ・ガローネの下で長年仕事をしており、本作にはガローネがプロデューサーとして参加している。初長編監督作となる本作は第76回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門にも入選している。 東京国際映画祭の会期中には、11/01 (金)18:00、11/05(火)10:30-の2回にわたり上映される予定だ。https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32CMP10

 

≪作品情報≫

監督/脚本  ヌンツィア・デ・ステファノ

脚本    キアラ・アタランタ・リドルフィ

キャスト  ヴィルジニア・アピチェラ/ピエトラ・モンテコルヴィーノ/ ロージ・フランチェーゼほか

2019/カラー/87分/イタリア

 

小野花菜 現在文学部に在籍している大学2年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。