来日中のダミアン・マニヴェル監督が、広島国際映画祭、 『若き詩人』の大阪公開を経て、東京に戻ってきました。

(12月11日(金)まで大阪シネ・ヌーヴォにて上映 http://www.cinenouveau.com/sakuhin/wakaki.html)

『若き詩人』は、来年1月16日(土)からの東京での公開に先がけ、 12月11日(金) 21時から渋谷、シアター・イメージフォーラムで先行上映も行われます。

http://indietokyo.com/?page_id=2572

そんなダミアン監督と、映画祭を通じて意気投合した『息を殺して』の五十嵐耕平監督の短編上映+トークショーが東京藝術大学横浜校にて行われました。

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今回のブログではその模様をレポートします。

ともに、ロカルノ国際映画祭新鋭監督部門に作品を出品した両監督。その出会いは、ランチタイムで、まったくの偶然だったと言います。しかし、お互いに作品を見て共通点があることを感じていたので、親交を深めるのに時間はかかりませんでした。。

五十嵐監督は、『若き詩人』を通して、彼の映画に対する姿勢や、興味が似ている点に親近感を抱き、すぐに仲良くなれる、と確信していたそうです。例えば、詩人になりたい男の子というテーマ(五十嵐監督作品『夜来風雨の声』)や、印象的な犬の使い方など、共通点がたくさん見つかったと言います。

ダミアン監督は、五十嵐監督は映画を作ろうというモチベーションを上げてくれる存在だと答えました。映画作りは、特に最初の脚本を書く作業は孤独なので、近しい感覚で語れる友人はとても貴重だと。

二人の共通点について、作品に登場する犬が話題にのぼりました。ダミアン監督の『日曜日の朝』、『犬を連れた女』には、同じ黒いラブラドール系の犬が登場します。また、五十嵐監督の『メルヒェン』、『息を殺して』には、同じ秋田犬が登場します。

五十嵐監督は、犬は、映画のなかで唯一、映画のことを全く考えていないキャラクターだからおもしろい、と言います。犬は、映画のなかでも、常に自然体です。犬には、映画の撮影だという意識はありません。カメラの中も、犬にとっては日常の延長です。犬は映画の虚構の世界から現実への抜け穴になりうるのかもしれません。

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ダミアン監督も、犬は、コントロールできない存在だからこそおもしろい、と五十嵐監督に同意しました。『若き詩人』に見られるように、役者においても俳優を使わず、町で出会った人に演じてもらうスタイルを好むダミアン監督は、演技のトレーニングをまったく受けていない犬を使いました。そのため、監督が望む動きをしてくれるまで、ただただ、待つしかなかったそうです。そうした犬との撮影の中で、監督は、犬から「今、したいことを自覚すること、そしてそれを大事にすること」を教わったと言います。 『日曜日の朝』は、当初は犬だけが登場する予定でした。ですが、人と犬の関係性に興味があったので、後から飼い主をストーリーに付け加えたそうです。ダミアン監督の作品に登場する犬は、まるで登場人物の心を映す鏡のようです。

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話題は、インディペンデントで映画を作ることの難しさに移ります。五十嵐監督は、いつも同じチームで作品を作っているが、製作にかける時間、労力が必ずしも報酬に見合うわけではない現場において、いつまでこの仲間と映画を撮れるかわからない、という不安があるとコメントしました。

これに対して、ダミアン監督は、やりたいことがやれなくなる恐怖があると答えました。フランスは日本より助成金が充実しているので、自主制作もしやすいのではないか、と思われるけれど、実際には、助成金の審査がとても厳しく、簡単ではないという現状があるそうです。そうした支援を得るためには、審査員にシナリオを気に入ってもらう必要があります。これは、自由なはずのインディペンデントの作品を、画一化してしまい、作家の独創性を殺してしまう危険がある、と監督は警鐘を鳴らしました。

できるだけ、お金をかけずに、本当にやりたいことをやるにはどうすればいいか。例えば、エリック・ロメール、ジョン・カワヴェテス、ホン・サンスといった監督は、それを実現する「システム」を確立しました。インディペンデントの映画監督は、そうしたシステムを見つけていくより他ないのかもしれません。

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また、話題は、作品をコントロールする難しさに及びました。社会派の作品を多く撮られている五十嵐監督ですが、自分の世代が感じていることを作品にしたい、という思いはあっても、シリアスな作品を狙っているわけではないそうです。むしろ、ユーモアを狙っているのだけど、日本の観客には、「シリアスな映画」という前情報があると、ユーモアがあるシーンでもなかなか笑ってもらえないのだとか。五十嵐監督の作品は、ユーモアがシリアスで包まれていると言えるのでしょう。

一方、ダミアン監督の作品はシリアスをユーモアで包んでいると言えるのかもしれません。『若き詩人』は、心の声と向き合うというシリアスなテーマが根底にありますが、夏の港町で、まるでチャップリンのようなコミカルな主人公が登場する、ユーモアにあふれた明るい映画です。

このように、トークショーでは、両監督の共通点、相違点が明らかになるとともに、フランスと日本のインディペンデント映画の現状をうかがうことができました。これからも、インディペンデントシーンの第一線で活躍する彼らから目が離せません。

『若き詩人』の東京先行上映(12月11日(金) 21時〜 シアター・イメージフォーラム)では、ダミアン監督のトークも行われます。この機会に、ぜひ足をお運びください。

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北島さつき World News担当。早稲田大学卒業後、現在は英国、レスター大学の修士課程 Film and Film Cultures MAにて世界各国の映画作品、産業、文化について勉強中。