東京国際映画祭ユースのティーンズ部門第2弾ということで、スウェーデンの10代の少女を描いた『約束の地のかなた』を紹介したい。


17歳の少女サビーナは、兄弟たちとルーマニアからスウェーデンの小さな町、ホルムスンドに移住してきた。サビーナたちはこの地で仕事を探しているが、サビーナの仕事はなかなか見つからない。
ある日サビーナが空き缶拾いをしていると、現地の15歳の少女エーリンと出会う。
彼女達は、肌の色も使う言葉も、境遇も全く異なる二人であったが、お互いに心を通わせ、次第に友情を築いていく。

家庭に問題を抱え、自分自身も傷つき周囲との隔たりを感じているエーリン。この窮屈な田舎町と家庭の中から逃れたい。一方、多くの兄弟や母親と離れ、異国の地で疎外されながらもなんとか一人で生きなければならないサビーナ。孤独を抱えながらも、自分が生きる場所をこの地に見つけて留まりたいと考えている。
お互い自分の心の内を素直に話すが、二人とも相手の状況や痛みをすべて理解しているわけではないだろう。だが、二人は互いに壁を作ることもない。それぞれがお互いに深い悩みを抱えていても、相手の存在がその悩みを忘れさせ、生きる希望となる。

 

映画に登場する人々は、国、人種、家族、個人、様々な単位で分断されている。その背後には、現代を生きる人々の不安や悲しみがあるだろう。そして、そういった分断は次第に不安から憎しみを生んでいく。それは町全体を包み込み、彼女達もその街に生きる少女として、その波にのまれていくこととなる。

 

 

欧州では移民との融合が大きな問題であり、こういった題材を扱った映画が相次いで作られている。今作品はその中でも、十代の少女達を通して彼らを取り囲む差別や分断に我々の眼を向けさせる。それは新たな物語を語るというよりむしろ、ドキュメンタリーのように、彼女達が、その時、その場所で生活している中で生まれてくる感情やその関係性を静かに見つめているようだ。

美しいスウェーデンの田舎を舞台に、辛い現実と未来への希望が胸をうつ今作。子どものみならず、日本国内に住み、普段から移民問題を意識することのない多くの人にも見てもらいたい。

 

≪作品情報≫
監督・脚本・編集 ヴィクトル・リンドグレーン
キャスト アンドレア・ペートレ/エーリン・マークルンド
スウェーデン/カラー/87分/スウェーデン語、ルーマニア語、英語

 

<p>小野花菜
現在文学部に在籍している大学2年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。