ロサンゼルスのある土曜日。6名の若者が警察に射殺される。彼らは悪名高いギャング集団のメンバーで、仲間たちは復讐を誓うのだった。
その夕方、娘を彼らに殺された父親が、その復讐に一人を撃ってしまう。彼が逃げ込んだ先の警察署は移転作業中で、ごく少数の職員と一時的に署に収監された移送中の囚人たちがいるだけだったが、報復として襲撃され、外部との連絡手段を遮断されてしまう。新人警部補のビショップ、女性事務員のリー、そして囚人のナポレオンらは、完全に包囲された署の中で共に抵抗することとなる。

29歳のジョン・カーペンターが、インディペンデントで制作した長編第2作目のこの映画について、私が第一に感じた印象は”すごく真面目な映画だ”ということだった。偶然居合わせた警官と凶悪犯として名高い囚人が、後には退けない状況で共に戦う、という設定を理屈抜きにとても面白いと感じていたし、不真面目な映画、というのもよくわからないけれど、容赦のない暴力から生まれていく物語も演出も、登場人物の台詞や佇まいも、格好つけているような堅さがあるけれど実際に格好良くて、自分たちの理想の映画を全力で作ろうとしているという熱意が画面からにじみ出ているように感じた。
DVDのパッケージによると、ハワード・ホークス監督『リオ・ブラボー』(1959年)へオマージュを捧げている作品らしく、オープニングには「編集:ジョン・T・チャンス」とジョン・ウェイン演じた映画の主人公の名前がクレジットされている。
敵に包囲された状況で戦う主人公たちというストーリーだけでなく、体から滴りおちる血によって上に潜んでいたその存在に気づく、といったような、言われてみれば…というような描写の引用もある(DVD収録のコメンタリーでは、いたるところでカーペンターが「昔の西部劇、メロドラマ、○○という映画を参考にしたんだ」と熱く語っている)し、銃を手にとり戦う事務員のリーを演じたローリー・ジマーのどこか超然とした眼差しは、何となくホークスの映画に出てくるローレン・バコールを彷彿とさせられるような気もする。

それでもこの映画の魅力は、そういったクラシックな映画への目配せだけでなく、偶然居合わせた者たちが共に戦うことによって関係性が生まれてくることの興奮が描かれていることにもある。攻め込んでくる敵に彼らが抵抗する、という場面では、各々が銃を発砲する短いカットが連続して編集されている。立場の異なる彼らが言葉のやり取りではなく、同じアクションによって通じ合っていくということにとても惹きつけられた。

立て続けに手に取ってみたカーペンターの映画には、例えば『ダーク・スター』『遊星からの物体X』『パラダイム』といったように、どこかに閉じ込められている登場人物に危機が迫ってくるという状況がとても多い。『要塞警察』の主人公たちも、まるで人間らしい感情など全く持っていないかのような不気味さのあるギャングの集団に完全に包囲された警察署のなか、その建物もあっという間にぼろぼろになってしまい、窓から攻め込んでくる敵とひたすら戦うしかないという状況に追い込まれていく。
長編処女作『ダーク・スター』(1974年)が、殆ど無意味にすら思える任務のために、宇宙船の中で停滞した日々を過ごす若い宇宙飛行士たちの退屈を描いていたこともあって、カーペンターの映画でしばしば登場するどこかに閉じ込められているという状況が、若者の抱くような、日常に対してもっとどこか広い世界を望む閉塞感とどこかで繋がっているような気がしてしまう。
特に『要塞警察』では、署を訪れたビショップが、迎えたリーに「自分はこのあたりで生まれ育ったんだ」と回想する場面が印象に残っている。
幼い頃、”悪い言葉を使ったから”この警察署に連れてこられたというビショップに「お父さんは町から連れ出してくれたのね」とリーは言う。しかし彼は「誰も私をここから連れ出してはくれなかった。20歳のときに自分で出たんだ」と誇らしげに語る。
勘ぐり過ぎかもしれないけれど、上司の問いに「英雄になりたい」と答える主人公の若い新人警察官と、作り手のカーペンターは、同じ野心を抱いてたのではないかと思ってしまうくらい、『要塞警察』にはそれまで映画について抱いていた憧れを目指そうというような情熱がある。最初に抱いた”真面目”という印象も、そこから来ているように思う。
並んで歩き去って行くビショップとナポレオンをカメラが追うラストカットは、二人の表情なのかカメラの動きなのか、なんだかカメラのこちら側を想像してしまうような不思議な生々しさを感じさせられて、映画自体の面白さだけでなく、幼い頃ホークスの映画を観て映画監督になることを決意し、夢中になった作品へのオマージュを捧げたアクション映画をインディペンデントで作ったカーペンターの姿も一緒に浮かび上がってくる。

『要塞警察』はアメリカではヒットしなかったものの、1977年のロンドン映画祭で高い評価を得て、カーペンターは期待の新人監督としての名を上げたという。そして次の監督作『ハロウィン』(1978年)が大ヒットし、出世作となった。それから40年が経った今、『ハロウィン』はシリーズ新作が公開されている。

私自身は恥ずかしながらこのレビューを担当するまで『ゼイリブ』しか観たことはなかったけれど、監督作を続けて手に取るなか、『要塞警察』のオープニングで、特徴的なカーペンター作曲の音楽が流れただけで”これからカーペンターの映画を観るんだ”と意気込んでしまうくらいに、自分のなかでのカーペンター作品像が作り上げられていることに驚いている。それだけでなく、この映画がホークスへのオマージュを捧げてはいるけれど、例えば音楽であったり、人間というよりはモンスターのような得体の知れない感じのする敵であったり、あるいは『ダーク・スター』のエイリアンとの鬼ごっこや『ゼイリブ』の喧嘩の場面を思い出させるような不思議な雰囲気が一瞬だけ流れる囚人たちのじゃんけんの場面であったり、そのほかのカーペンター作品を思い起こさせる要素が確かにあって、それらを最近知ったばかりなのに、不思議とそれがとても楽しいなと思ってしまう。

『要塞警察』
監督・脚本・音楽:ジョン・カーペンター
製作:J・S・カプラン
出演:オースティン・ストーカー、ダーウィン・ジョンストン、ローリー・ジマー、マーティン・ウェスト、トニー・バートン
撮影:ダグラス・ナップ
美術:トミー・リー・ウォレス
1976年/アメリカ映画/91分/カラー/原題”Assault on Precinct 13”
※TCエンタテインメントよりDVD・BDが発売中

◆人間にはどうすることもできない圧倒的な力を持った“何か”を描いてきたカーペンター。その“何か”とは車であり、亡霊であり、宇宙から来た未知の生命体でもあるが、その真骨頂とも言える『遊星からの物体X<デジタル・リマスター版>』が公開中。丸の内ピカデリーでは延長上映中です。
『遊星からの物体X<デジタル・リマスター版>』公式HP

◆また、IndieTokyo主宰の大寺眞輔氏をはじめ豪華な執筆陣がそれぞれの視点からカーペンターの魅力を語った「ジョン・カーペンター読本」も発売中!

◆エイリアンの地球侵略をカーペンターの流儀で描いたSFスリラー『ゼイリブ』の製作30周年記念最新HDリマスター版もまだまだ上映中。
『ゼイリブ<製作30周年記念HDリマスター版>』公式HP

IndieTokyoジョン・カーペンター連続レビュー
第1弾『ハロウィン』
第2弾『遊星からの物体X』
第3弾『クリスティーン』
第4弾『ニューヨーク1997』

吉田晴妃
四国生まれ東京育ち。大学は卒業したけれど英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。