2月15日(月)まで開催中のマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバス(MYFFF)。第11回目の開催となる今年は、長編13本(うち1本は国内視聴不可)と短編20本がオンラインで楽しめる。本記事では、ステファン・リートハウザー監督のドキュメンタリー映画『マダム』をご紹介。

本編の中心となるのは、祖母のキャロラインと孫息子で映画監督のステファン。90歳のキャロラインは結婚生活が破綻した後、男性が支配する社会で実業家として地位を確立する。一方、彼女のお気に入りの孫息子ステファンは同性愛者である。彼らが暮らすスイスは『家父長制』が深く根を下ろしている社会であり、さまざまな困難な状況を生み出す。この土地で生きる一族の記録が、ホームビデオで紡がれていく。

ブルジョワ階級の祖母と同性愛者の息子の対話のドキュメンタリーと聞くと、保守的な祖母に理解してもらえない孫の様子が連想される。しかし、本作では、祖母の側もまたマイノリティとして社会と闘ってきた存在である。お年寄りと若者の二項対立ではなく、協力し合う関係。そこが、最近数多く上映されてきたLGBTQを題材とした映画と異なる興味深い点である。

また、孫息子が語る祖母のストーリに胸を打たれる。祖母が味わった強制結婚をさせられたときの恐怖、女性実業家が認められない悔しさ。そういった感情が丁寧に描き出されている。きっと、取材者の側も同じ苦しみを味わったからであろう。世代も性別も違うけれど、同じ痛みを背負った孫息子が彼女の過去を救っているように思える。

男らしさとは何か。女らしさとは何か。この固定概念との闘った女性実業家の祖母とゲイの孫息子の悲劇とも呼べるドキュメンタリーがどんな展開を迎えるのか、ぜひご覧になってみてください。

《作品情報》原題Madame/スイス/2019/カラー/94分/フランス語

【第11回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間: 1 月 15 日(金)〜 2 月 15 日(日)
料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編-無料
公式サイト:http://www.myfrenchfilmfestival.com
主催:ユニフランス

兒玉奈々
Indie Tokyo Blog担当。慶應仏文卒。コピーライター/プランナー。ラブストーリーと日常に加えて、社会課題がテーマの映画にも興味が出てきました。