第34回東京国際映画祭。本記事では、ブリランテ・メンドーサ『復讐』を紹介します。

『復讐』Payback

フィリピン / 2021年 / 105分
監督:ブリランテ・メンドーサ ( Brillante Mendoza )

 

 フィリピンのマンダルヨンで三輪タクシーの運転手をしているイサックは、不当な理由によって背負わされた父の借金を肩代わりすることになる。父は地域のボスであり政治家であるレネが経営する店でバイクの仕入れや販売を行っていたが、その実態は、組織ぐるみで街にあるバイクを盗み、それを修理し新品として販売する仕事だった。父の借金を返済するため、イサックもまたこの違法労働に従事することを余儀なくされる。順調に仕事をこなしていくイサックだったが、彼はある日、取引の最中に事件を起こし、警察によって指名手配されることになる。

 『復讐』の原題paybackが返金/復讐を意味する言葉であるように、本作は借金の返済と、富裕層あるいは支配層に対する復讐がテーマとなっており、それは作中にたびたび登場するMCバトルの応酬においても示唆されている。映画は、生きるために法を犯さざるを得ない状況へと追いやられてゆく貧しいものたちをとらえると同時に、法によって裁かれることがない富裕層あるいは権力者たちの姿を、臨場感のある手持ちカメラによって映しだす。

 メンドーサは、詳細な演出や脚本を使用せず、俳優たちになるべく「演技をさせることなく」撮影を行うことで知られている。これまでの作品と同様、本作でもまた実際の人口密集地を舞台にして撮影を行なっており、作中に登場するネズミや害虫を駆除するシーンは、フィリピンで実際に行われたものを撮影しているという。ドゥテルテ政権下、警察や自警団の汚職が蔓延しているフィリピンにおいて、貧困地域で生活するものたちは、警察によっていつでも殺害されうる存在となっているが、駆除シーンにおいて散布される薬剤に悶えるネズミたちあるいは害虫たちは、権力者たちに不必要なものとして殺害されゆく貧しいものたちへと重ねられる。

 

≪作品情報≫
『復讐』
2021年 / カラー / 105分 / タガログ語 / フィリピン
監督:ブリランテ・メンドーサ
出演:ヴィンス・リロン
   ナッシュ・アグアス
   ジェイ・マナロ

 

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。