本記事では、デイヴィット・ボヌヴィル監督の『最後の入浴』、ジェム・オザイ監督の『赦し』の2本を紹介する。どちらも両監督の長編デビュー作となる。

 

『最後の入浴』

(ポルトガル・フランス/2020/カラー/94分/ポルトガル語/原題:O Ultimo Banho)

燦燦と陽が注ぐ田舎の村で、一人の女性が暮らしている。その女性は40歳の修道女。そんな彼女のもとに身寄りを無くした15歳の甥が身を寄せることになる。伯母は甥を温かく迎え入れ、二人は次第に絆を深めていくが、神に仕える伯母の心中は次第に複雑になってゆく。

若さに溢れる甥の身体。そんな甥と、そのガールフレンドの交わる視線。突然訪ねてきた妹(甥の実の母親)。その妹のカールしたロングヘアに、フルメイク。キリスト教的禁欲と倒錯的な欲望が絡み合う中で、女性は自らの内面に下りてゆく。そしてそれは伯母と実の母親の間で揺らぐ甥についても同様である。愛情と執着を履き違えれば愛のない人に出会い、やるせなさを携えて寄る辺なく彷徨えば傷つく。洗ってあげていた身体を洗い返してもらうような、まなざせばまなざし返されるような、愛をいつまでも探している。

ボヌヴィル監督は過疎高齢化が進んだ村で奇跡的に赤ちゃんが誕生した、というニュース映像から本作を着想した。舞台となったのはポルトガル北部、ドウロ渓谷。陽光きらめく絶景と、暗い葛藤を抱えるヒロインの内面のコントラストが鮮やかだ。

<上映予定>

11月4日11時5分  TOHOシネマズ六本木ヒルズ

 

『赦し』

(トルコ/2020/カラー/95分/トルコ語/原題:Forgiveness)

内向的な12歳の長男アジズ、快活な10歳の次男メリク、厳しい父、口数の少ない母の4人家族。父はそんな長男を疎み、次男を好いていた。舞台は山深いところにある一軒家である。父は兄弟に木の切り方や銃の扱い方を教えていく。兄弟が銃を用いて遊んでいたある日。アジズはふとしたはずみでメリクに銃口を向け、発砲してしまう。

血を流して動かなくなったメリクを前にして、父は愕然とし、母は沈黙を続け、アジズは絶望した。父の職場である木工屋の上司は、「この世界には70億人の人がいてそのそれぞれに70億個の困難がある、運命だと思って受け入れるしかないのだ」といった趣旨の言葉を父に放つ。困難があろうと、誰かが突然死んでしまおうと、人生は続いていくし、家族という不可思議な共同体も存続していく。自らの内面に抱えた罪が消えることは決してないけれど、その罪の存在を見つめて決して忘れない。そして自分自身を”許さない”ことで、時間をかけながらも”赦される”ことが可能になるのだろう。

監督であるジェム・オザイは、数多くの報道機関で編集の仕事に携わったあと2003年から映画業界に転身した。セリフを切り詰め、静寂が支配するこの映像空間は、現実世界と肉薄する。

<上映予定>

11月4日20時50分/11月7日20時5分 TOHOシネマズ六本木ヒルズ

 

 

川窪亜都
2000年生まれ。都内の大学で哲学を勉強しています。散歩が好きです。