『ジョギング渡り鳥』監督・キャストインタビュー by IndieTokyo

新宿・K’s cinemaにて3月19日(土)より公開中の『ジョギング渡り鳥』。「モコモコ系メタSF映画」と謳われている本作は、一体どのような制作経緯を辿ったのでしょうか。

鈴木卓爾監督をはじめ、本作のキャストでありスタッフでもある(!)中川ゆかりさん、永山由里恵さん、古内啓子さん、矢野昌幸さんに取材させていただきました。

(取材・文:永山桃、ヒゲノジュン/撮影:宮田克比古)

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Q.製作のきっかけを教えてください。

鈴木卓爾監督(以下、鈴木):出演者は、映画美学校の「アクターズ・コース第一期生」のメンバーから構成されています。アクターズ・コースが二年目を迎えた際、海部路戸珍蔵(しーべると・ちんぞう)を演じ音楽も担当した小田篤さんから「合宿して撮影を行おう」という声があり、誰もここまで壮大な企画になるとは予想していなかっただろうと思いますが、結果的にそれが製作のきっかけになりました。

ロケ地が埼玉県の深谷になったのは深谷フィルムコミッションの強瀬誠さんと私が『ゲゲゲの女房』で出会い、その後の『駄洒落が目に沁みる』という3.11を題材にした短編でさらに親交を深めていたという背景があります。

Q.監督には、どのような思いがあったのでしょうか。

鈴木:アクターズ・コースの生徒が初等科から高等科に上がっているタイミングでもあり、講師としても「高等」なことを教えるなら作品をつくるしかないであろう、という思いがありました。また、震災以降、”3.11”を抜きにフィクションは語れないと考えていました。その思いを共有できる若い俳優たちと組みたかったんです。

Q:1人1人のキャラクターはどのようにして決まったのでしょう?

鈴木:俳優は、映画美学校の2年目の仲間であり、それまでの過程で、普通の映画の現場ではなかなか難しい、”初日にきっちりアンサンブル芝居ができる”という状態でした。かみ砕くと、普通の映画は、様々な俳優がバラバラにキャスティングされてくるので、空気感がバラバラですが、『ジョギング渡り鳥』の俳優たちはこれまで一緒に作品をつくったり、授業を受けている仲間なので、同時に動く事で足し算だけではなく、かけ算みたいな芝居の緊張状態が作られる、その空気感が出来上がっていたということ。制作作業としては、まずはみんなが出したいくつかのキーワードや、エチュードをもとに決めていきました。

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Q.撮影時期や手法を教えてください。

中川:撮影は第1期、第2期に分かれています。第1期は2013年の1月で、平日に仕事をしている役者も多いので、週をまたいで11日間ほど行いました。

第1期の撮影後、夏のあいだに編集を行いました。編集を通して、それぞれの人物に決定的に足りていないシーン、ピースを探していくような話し合いを持ちました。それを踏まえて、第1期撮影を補完するようなシーンを追加撮影していくという流れでした。

矢野:第2期は同じ年の秋です。第2期の撮影時には台本を製本しました。追加撮影が続くので、一生撮影が終わらないのではないかと思うときもありました(笑)。

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Q.撮影期間の俳優としての正直な気持ちは…

古内:台本は、ほとんどプロットが書いてあるだけだったので、これがどう繋がって映画になるのかなんて全く分からなかったが、とにかく、スタートがかかったら、分からなくてもやる、という気持ちでした。

026Q.他に撮影で大変だったことはありましたか。

鈴木:実は、第1期の撮影時に純粋にスタッフとしての録音部がいませんでした。劇中で「モコモコ星人」たちがカメラやマイクを回していますが、撮影だけでなく録音も行い、それらを実際に素材として使っています。さすがに整音時、現場に来ていないスタッフに全体のサウンドデザインを任せるのは厳しいだろうということで、第2期から川口陽一さんに参加していただきました。

2014年の秋は、映画の仕上げ期間の最盛期になりました。出演者の中から新たに「効果音部隊」を結成し、これを実行する激戦状態の再燃となりました。瀬士産松太郎を演じた柏原隆介さんが中心となって、川口陽一さんが制作したサウンドシートをもとに、「実際の音を実際の役者が演じて録音する」作業を行いました。なので、地絵流乃純子が走っている足音は、中川ゆかりさんが実際に走る、というように途方もない作業を積み重ねていきました。中川さんが当時、横浜で演劇をしていたので、終わってから多摩川沿いに移動して終電ぎりぎりまで録音するといったことや、寒い中深夜に桜上水あたりで録音を行ったこともありました。2年経って初めて俳優が「もう無理です」って言うほど、狂気の状態だったのかと(笑)169

Q.地絵流乃純子(ちえるの・じゅんこ)、留山羽位菜(とめやま・うくらいな)、麩寺野どん兵衛(ふてらの・どんべえ)、山真美貴(せなやま・まみき)等々、登場人物の不思議なネーミングは事前に決定されていたのでしょうか?

鈴木:撮影の段階から全て決まっていました。構想段階で数秒で考えていったもので、一貫性がないのでもっと考えれば良かったかも(笑)

永山:ちなみに、留山羽位菜は旧姓が「福竜丸」であるといった裏設定もあります。(笑)

Q.映画を作っていて、一番大事にしていたことは?

鈴木:とにかく、全員でやるということ。自主制作でないと出来ない、とても効率の悪いことを徹底的にやってみました。分業せず、撮影場にはみんながいて、みんなでご飯を食べ、みんなで移動する。そういうことをやりました。

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Q.現実的な部分、つまり日常と、非現実な部分が絶妙に混ざりあってている感じを受け、とても不思議だと感じました。どんなふうに、この形に完成したのですか?

鈴木:端的にいうと、俳優の編集3バージョン→監督の編集3時間バージョンを経て、撮影に関わっていない外部の視点として鈴木歓さんに編集してもらい、完成しました。この編集は、”最終デザイン”のようなものです。

この映画は、群像劇としての複数の視線があり、そして更にそれを複数の視線が撮っているという本当に複雑なことをやっているので、ある種のバラバラさがある。そのバラバラさを、できるだけ残したいと思ったのです。それでも果たして、映画として成り立つのか?これでも映画足りうるのか、ということを突き詰めてみたかったのでしょうね。

現実と非現実のブレンドについては、俳優も、監督も、けしてわかったうえでやってるわけではないんです。

そうしたのは、それが分かるのはお客さんなのだと思うからです。お客さんに観てもらう時、映画が正体を現す。その為には、我々は前もって分かってしまってはいけないのではないか?と考えていました。

お客さんが御覧になった後に、映画の断片がふっと日常の時間の中に思い出されたり、何かが心に引っかかってほしいし、映画の時間をお客さんの中での日常と混ぜ合わせた中に映画が残るようになるように。おそらく、どの映画作品でもそういった事は起こりますが、この映画の場合、それがより強く、着地の瞬間がお客さんの中で羽根が広がるようなものであって欲しいと思ったのが、大きな目的と理由ではないかと思っています。

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Q.最後に、ついに公開を迎える、自分にとっての『ジョギング渡り鳥』とは…?

背名山真美貴(せなやま・まみき)役:古内啓子さん

「一つの映画の企画から撮影、ポスプロ、そして今やっている宣伝を経験して、映画を“知る”過程でした。映画の中身は、良い意味で、ぐちゃぐちゃでまだ完成していなくて、これが始まりだなと思います。」

麩寺野どん兵衛(ふてらの・どんべえ)役:矢野昌幸さん

「卓爾さんの授業からこの映画は始まったわけですが、僕にとっては演技を教わる学校の範疇を超えて、映画作りを体験することで、人生を教わったような気がします。」

留山羽位菜(とめやま・うくらいな)役:永山由里恵さん

「まだ公開中ですので自分の中では、この映画は現在進行形です。映画を撮影することから宣伝まで行ってきて、もちろん日々大変なことと、嬉しいことの積み重ねではありますが、私にとって人生のなかの稀有な経験をさせてもらってると思いが強いです。もう少し、この映画が観客の皆さんの元へ巣立って行く様子を傍で見守っていたいと思ってます。」

地絵流乃純子(ちえるの・じゅんこ)役:中川ゆかりさん

「私にとってつくることは優先順位が高いのですが、ここはそれができる場所、「ここならいられる場所」という感じです。自分が面白いと思うことを提案すると自分も相手も思っていなかったような、ナナメ上の反応が返ってくる。自分がいることで誰かと一緒に別のものが生まれるところに立ちあえる。そのことがすごく幸せです。『ジョギング渡り鳥』についてのことは一瞬も逃したくない。同時にどんどんこの映画には手元から羽ばたいて欲しいと思っています。」

鈴木卓爾監督

「生まれてはじめて、自分はこういう映画が作りたかったんだということを実感しつつあります。原初的に、映画の謎を解きたい、失敗してもいいから映画の謎に穴をあけたい、一度でいいからこんな映画を作ってみたい、という思いに、他者である映画美学校の俳優たちがここまで付き合ってくれました。

宣伝を行うことで色々な方々からコメントを頂き、言葉の名人のような方々から思ってもみなかった言葉をもらい、その中からさらに次のテーマが見えてくる、というようなこともありました。これから劇場公開し、さらに色々な人からの感想やコメントで『ジョギング渡り鳥』がどんな映画になっていくのか楽しみだし、本当に私たちの手の届かないところまで、いってほしいと思っています。」

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◼︎『ジョギング渡り鳥』の感想

ヒゲノ:映画の奇跡が何度もさらっと描かれている、美しい結晶のような映画だと感じました。俳優の方々と監督の信頼関係が画面から伝わってきます。深谷の町(大きな駅が印象的!)がサイエンスフィクションに彩られ、登場人物の妙な身近さが、まるで自分も町の住民となってそっと傍観しているような気分にもなったり。2時間半を超える長尺ではありつつ、晴れやかな気持ちになれる心地よい映画です。「宇宙人がモコモコしてたらどうですか?」の問いに、「最高ですよ」と答えたいです。

永山:私はこの映画をはじめて観て、不思議な感覚がしました。面白くて笑えるシーンがあり、不思議だけど、魅入ってしまうシーンがあり、好きなシーンがたくさんありました。現実と同じで、登場人物みんなに悩みがあり、みんなのことが好きになりました。感想すべてをここには書けないですが、始めは、とにかくなんだろうという気持ちで見ていて、途中からだんだん心地よくなり、これ、どうなるの!?って目が離せなくなり、そして、終わっても続いていくそれぞれの人生が楽しみに思えました。

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◼︎インタビューを終えて

ヒゲノ:鈴木卓爾監督自身、世の中を憂うこともありつつ、だからこそこんな映画を作りたい、というその情熱的な思いを強く感じました。優しい語り口でたくさんのことを教えていただきました。監督の求心力の秘密を少しでも知ることができ、大変貴重な機会になりました。製作開始から四年、映画美学校での出会いから含めれば五年近い期間を経て完成させたと知り、作品に掛けられた歳月を想ってもグッときてしまいます。そして、『ジョギング渡り鳥』に終わりはないのだろうと思いました!

永山:直接お話を聞くことが出来て、本当に貴重で有意義な時間でした。こんな不思議な映画を、どんな人たちが作っているんだろう、頭の中はどうなっているんだろうと思っていたのですが、やはり、自分の考えを持っていてそれをしっかりと言葉にできる魅力的な方々が作ったんだな、と納得がいきました。一見、偶然撮れたものを自然に使っているように見えるところも、偶然ではなく、ちゃんとした理論をもって使っているのだろうなとも感じました。わたしは運よくこの作品に出会って、しかも創り手の方々にお話を聞くこともできて、良かったです。素晴らしい時間でした。

『ジョギング渡り鳥』が皆様のもとに届きますように!

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写真 右から)矢野昌幸さん、古内啓子さん、永山由里恵さん、中川ゆかりさん、鈴木卓爾監督

劇場情報

新宿・K’s cinemaにて3月19日(土)より公開中

以後、全国順次公開

公式URL

http://joggingwataridori.jimdo.com

 

永山桃
早稲田大学一年生。二階堂ふみさんと、池脇千鶴さんと、田中絹代さんが好きです。役者を志していますが、映画に一生関わって生きていきたいです。あとは、猫が好きなのに、柴犬をかっています。ワンワン!

ヒゲノジュン
イベント・上映部門担当。立教大学現代心理学部映像身体学科卒。「映身祭」運営、映画『ちづる』上映委員会、映画『みちていく』宣伝 等。好きな女優は、多部未華子。