8月4日から8月31日まで、池袋シネマロサにて「新人監督特集」が始まった。
これは1週間ごとに1名の映画監督を特集し、作品をレイトショーで上映するというもの。
1週目、4日から10日は今年、東京藝術大学映像研究科映画専攻を卒業した西川達郎監督の「触れたつもりで」が上映されている。
西川監督は東京藝術大学在学中は諏訪敦彦、黒沢清に師事。公式サイトでは諏訪監督を始め、映画監督・脚本家からのコメントが掲載されている。
http://furetatsumoride.jp/

またこの上映では、西川監督が東京藝術大学に入学して作成した1本目の実習映画「ゼンラレジスタンス」、川原杏奈監督の「がらんどう」が上映されている。
ここでは各作品の紹介を上映順に紹介していく

ゼンラレジスタンス


==あらすじ==
規則に厳しすぎる警察官・矢淵には、恋人にも言えない過去があった。それはかつて自分がストリーキングに情熱を燃やしていたこと。恋人との仲も円満な一方、矢淵は昔のストリーキング仲間の林からの熱心な誘いを受けていて—。
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私が観た会では上映後に舞台挨拶が行われた。西川達郎監督を始め、脚本の中野みづほ、メインの登場人物、細川佳央、竹本みき、三原哲郎の3名が登壇した。
この映画は第二回関前諸島岡村島映画祭で三原哲郎が助演男優賞に輝いており、主演の2人の存在感に負けず、ストリーキング(公共の場を全裸で走り抜ける行為)を行う怪しい男、林を怪演しているところが見どころだ。

今作は、東京藝術大学映像研究科の最初の課題作品として制作された。脚本領域に在学していた中野みずほ自らが企画し脚本を提出。それを読んだ西川監督は絶対に自分ではこの脚本は書かないという点に惚れ込み、メガホンをとった。
「せっかくの短編だしちょっときわどいものを使ってみよう」そんな動機によって書かれたという脚本は、周りからは受け入れられない正義感を持った男性が、自らの信念を曲げずに突き進んでいく姿を描く。

ストリーキングというきわどい題材を扱った本作だが、撮影中に一番大変だったのは、やはりいかにストリーキングを撮影するのかという点だったという。当初、書かれていた脚本を映像化するため準備を進めていたところ、そのあまりの過激さに本当に警察沙汰になってしまうのではないかと教授陣から心配されたという。そこから改編に改編を重ね、撮影を行ったものが本作だ。

そのモチーフ故に困難な現場となった今作、ラストの大胆なシーンには、見ていてすがすがしい気持ちにすらなってくる。

監督:西川達郎
出演:細川佳央、竹本みき、三原哲郎ほか
2016/日本/カラー/15mins

がらんどう


==あらすじ==
母、唯子を失った早希は心の傷を癒せず父の則夫に冷たくあたってしまっていた。
心配した祖母のヨシ子に呼び出された早希は、母の部屋で一枚のバーコードを見つける。
それはヨシ子と唯子の希望の約束だった。
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小島里砂、坂倉球水という若手女優二人と、坂口候一、熊谷ニーナといった声優陣が共演する今作。「触れたつもりで」では脚本を担当した川原杏奈が、日本大学芸術学部卒業作品として制作した。川原監督は他にも脚本、編集も担当している。

失った母の部屋で偶然ハンカチを広げたら出てきたバーコードの切り抜き。些細なモチーフが残された母の昔の記憶を呼び起こす。なぜバーコードが1枚だけハンカチに挟まっていたのか、なぜ親子の間に溝が生まれてしまったのか。過去の出来事の真相を探っていく物語は、過去に何かが起こり、それを巡るという点で、「触れたつもりで」と似通っているようにも思える。しかし「触れたつもりで」が現代の街中を舞台としている映画であるのに対して、今作は現代と数十年前を交互に写し、画面には郊外から田舎の景色が広がる。

学校が終わった後には友達と川原で魚釣りをするような田舎での生活の中で、慎ましく暮らす親子の小さな挑戦が始まる。

監督・脚本・編集:川原杏奈
出演:小島里砂、坂倉球水、熊谷ニーナ、坂口候一、小野広子ほか
2015/日本/カラー/29mins

触れたつもりで


==あらすじ==
女子高生ももは、元犯罪者の噂がある男性、由之とアルバイトをしている楽器店で出会う。
互いに心の傷をもつふたりは次第に打ち解けていくが、ある事件が起こり、思ってもよらない方向に事態が進んでいく。。
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今作は、東京藝術大学大学院映像科映画専攻にて製作された短編作品である。
監督は前作「向こうの家」では、父親の不倫に翻弄される少年のひと夏を描き、連日立ち見を記録するなど話題を呼んだ西川達郎。脚本は、「カルテット」「anone」などの坂元裕二に師事した川原杏奈。

主役の女子高生ももを演じるのは、「ブレイカーズ」(18)、是枝裕和の総合監修による「十年」が控える大田恵里圭。ももと次第に心を通わせていく由之を演じるのは、「湯を沸かすほどの熱い愛」で印象的な演技をみせた泉光典。楽器店の社員に「赤色彗星倶楽部」の櫻井保幸、ほか「100回泣くこと」の松木大輔だ。

淡々とした映像の中に、独特な表現方法が光り、特に冒頭シーンには心をひきこまれる。
車が重要なアイテムとして描かれることで、静謐なトーンの物語に動きが生まれ、サスペンスフルな展開を思わせる。新人監督とは思えない、タイミングをはかったかのような、クラシカルな音楽が心をゆさぶる。ももと由之の関係をみているうちに、誰にもゆずれない、大切なものを守ることとは?を考えさせられた。想像しえない映像体験が得られることは間違いない。

監督:西川達郎
脚本:川原杏奈
主演:大田恵里圭、泉光典、櫻井保幸、大石菊華、松木大輔
2017/日本/カラー/28mins/5.1ch/DCP

(前文、ゼンラレジスタンス、がらんどう)

髙橋壮太
イベント制作会社に勤務しながら、自主制作映画を細々と作っています。荻窪のすごくボロイ家に住んでいたのですが引っ越して、荻窪のまあまあボロい家に今住んでいます。是非ロケハンに来てください。

(触れたつもりで)

鳥巣まり子
ヨーロッパ映画、特にフランス映画、笑えるコメディ映画が大好き。カンヌ映画祭に行きたい。現在は派遣社員をしながら制作現場の仕事に就きたくカメラや演技を勉強中。好きな監督はエリック・ロメールとペドロ・アルモドバル。