通りで今晩の宿を探す男たち。彼らを買っていく男たち。主人公レオもまた、道路のわきで次の客を待っている男の一人だ。家を持たず、携帯も持たず、客からわずかにお金を受け取って刹那的に生きている。

 物語の始まりは強烈だ。あっ、と思ったときにはもう、私の世界から彼の世界に足を踏み入れている。
というのも、映画全体にわたって、多くの性描写が露骨に描き出される。18歳未満は鑑賞不可とあるように、かなり大胆な描写が多く、観客に不快感を与える可能性も十分にある。私自身、映画館で見ていたら逃げだしていたかもしれない。しかし、これらの生々しい描写は、単にエピソードを付け加えるためのものでも、レオの身の上を説明するためのものでも、個々のシーンを盛り上げるためのものでもない。それが彼の持っている世界そのものなのだ。

 そんな彼の生きている世界には、もちろん男娼として、客として、たくさんの男たちが登場する。それぞれに印象を残していく彼らの背後にはしかし、社会のシステムが見え隠れする。レオの同業者らは、客とはキスはしない。彼らの行為は既に社会のシステムからこぼれ落ちているとも言えるが、主人公の持つ「野性」=「SAUVAGE(ソヴァージュ)」は、彼を周囲のどの男たちとも異質な存在にする。

 レオはどこか別の世界に住んでいるかのような不思議な存在だ。彼については何も語られない。彼の背景も、物語のその先も。22歳の青年だが、学校、就職、家庭といった、人生に影響を及ぼすはずのものが姿を見せない。孤独で暴力的で、醜い世界で痛めつけられることも、ひどい仕打ちを受けることもある。ボロボロの体で街を歩き続け、倒れ、動けなくなる。その姿には心がえぐられる。生々しく苦しい映画だ。

 だからこそ、多くの性描写とは対象的な〈私たちの世界〉での抱擁シーンはとても柔らかく、優しい。私たちは、あぁよかった、と安堵する。彼は救われたのだと。彼の姿はこざっぱりとし、容姿も「きれい」という言葉がぴったりだ。これで彼は、人から愛され、健全な生活を送ることができる…。

 しかし結局のところ、クラブで光の中に浮かび上がる彼の歪んだ顔と、その身体の美しさには、残酷ながらも心奪われるものがある。彼の自由、彼の求めているもの、野性のままにその場を生きていく彼の異様な美しさには迫力がある。生々しく描き出される彼の身体、息遣い、皮膚からは、滲み出るような生を感じるのだ。

 そんな主人公を演じたフェリックス・マリトーは、2017年に『BPM ビート・パー・ミニット』でデビューした若手の俳優でありながら、凄まじい演技を見せた。彼の姿、振る舞いが直接この映画を物語っていく。
 本作は、カミーユ・ヴィダル=ナケ監督にとっては初の長編作品となったが、俳優陣、製作者らのこれからの活躍にも注目したい。

 

 

 

『ソヴァージュ』
SAUVAGE /2017年/フランス/99分
監督:カミーユ・ヴィダル=ナケ
出演:フェリックス・マリトー、エリック・ベルナール

22歳の青年レオは、街娼をして僅かな金を稼いでいた。次から次へと行き交う男たちに、彼は愛を求め、身体を差し出す。明日がどんな日になろうとも、それはレオの知るところではない。彼は今日も街に繰り出してゆく。胸に高鳴る鼓動を感じて…。

 

この作品を含め、映画祭では8本の長編映画に加え、多数の短編映画も配信中!

【第9回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間:2019年1月18日〜2月18日
料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編(60分以下)-無料
配信サイト:iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix、MUBI、青山シアター、Uplink Cloud、U-NEXT、Beauties、VideoMarket 、ビデックスJP、GYAO !、ぷれシネ、Rakuten TV(短編のみ)、ほか
*配信サイトにより、配信作品、配信期間が異なります。配信サイトは変更、追加になることがあります。
公式サイト:www.myfrenchfilmfestival.com
主催:ユニフランス

 

小野花菜 早稲田大学一年生。現在文学部に在籍しています。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。