『夏が終わる前に』(“Avant la fin de l’été” 80分/ フランス・スイス/ 2017年)

監督:マリャム・グールマーティ

出演:アラッシュ、アシュカン、ホセイン

 

  冒頭、画面の中心を占拠する肥満体型の男が、悠々自適にタバコを吸っているシーンから映画は始まる。立派な口ひげと、Tシャツからはみ出る下っ腹。男の名前はアラシュ。パリへやってきて5年が経とうとしているのだが、人付き合いが苦手で、周りと良い関係性を築くことができない。もう留学に見切りをつけ、故郷のイランへと帰ることを決めた。帰り支度を手伝っているのは、同じようにパリで学生生活を送っているアシュカンとホセインだ。友人との別れを惜しむ2人は、アラシュを旅行に誘う。南仏に向かって、男三人の旅が始まる。

 

 異国の地での旅というものは、人にこれまでの人生についての内省を促すものである。この映画の中でも、フランスでの生活や、イランでの遠い記憶がふとした瞬間に蘇り、現在と交差していく。印象的なのは、車の窓から見える景色が、南仏の緑豊かな自然から、荒涼としたイランの力強い大地へと置きかわるモンタージュだ。そうして浮かんできた記憶を、夜、テントの傍で友達どうし、ああだこうだと話し合っている様子にはデジャブを感じてしまう。

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 いわゆるロード・ムービーというと、どこか爽やかな感じを連想する。しかしもう30歳を超えている3人組の旅からは、そうした青春のみずみずしさは感じられない。むしろ映画を流れるベースの低音が、メランコリックな雰囲気を掻き立てるし、画面の色味もどこかどんよりとしている。フランスで人間関係に挫折したり、イランでの兵役が残っていたりと、彼らの人生もうまくいっているようには見えない。ただ一方で、彼らの中にはどこかゆっくりとした、不思議な時間の流れがある。表情の中にはユーモアがあり、「自由」「軽さ」といった雰囲気が感じられるのである。そんな映画の雰囲気をまさに体現しているのが、顔が凛々しい、それでいていつも下っ腹をTシャツの下から覗かせている、アラシュの存在なのかもしれない。

 

 

 

監督のマリャム・グールマーティは本作が長編デビュー作。1982年、ジュネーヴ生まれの彼女の母親はイランからの移民である。そんな彼女自身のルーツの問題も、この映画の背景にはありそうだ。次回作は再びこの3人組を主人公にして、今度はイランで撮りたいと意気込んでいる。またアラシュの下っ腹を拝めるのだろうか。

 

この作品を含め、映画祭では現在12本の長編映画と11本の短編映画も配信中!
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IndieTokyoメンバーによるレビューブログもまだまだ続くので、お楽しみに!
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料金   :長編映画-有料(各配信サイトの規定により異なる)、短編映画(60分以下)-無料
配信サイト:青山シアター、アップリンク・クラウド、VIDEOMARKET、ビデックスJP、DIGITAL SCREEN
短編のみ :GYAO!、ぷれシネ
長編のみ :iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix
※配信サイトにより配信作品や配信期間が異ります。
公式サイト:www.myfrenchfilmfestival.com
アンスティチュ・フランセ東京
「スクリーンで見よう!マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」

村上 ジロー 
World News担当。国際基督教大学(ICU)在学中。文学や政治学などかじりつつ、主に歴史学を学んでいます。歴史は好きですが、(ちょっと)アプローチを変えて映画についても考えていきたいと思ってます。