『森の奥深くで』 Dans la forêt 
(103分、フランス、2017年2月フランス公開)
監督:ジル・マルシャン
主演: ジェレミ-・エルカイムティモテ・ヴォム・ドルプテオ・ヴァン・ドゥ・ヴォルド

何かが起きる予感…。物語は、不穏な雰囲気を醸し出す音楽から始まる。映画を支配する不気味な雰囲気が、私達を日常から離れた”奥深くの闇の世界”へと連れていく。その何かが起きる予感はラストまで続き、更にサスペンスの緊張感も感じさせ見る者を飽きさせない。

タイトルの通り、舞台は森の中だ。 次々と起こる怪しい出来事が自然界と混じり合って独特な世界観が生み出されている。 主人公のトムも、自然も、人間がコントロールできない神秘的なエネルギーを持っている。繰り返し映されるトムの”目”とそして自然の美しさや厳しさに魅了されていく。

幼いトムとその兄ベンは離婚した父のもとで休暇を過ごすことになり、父の住むスウェーデンへ向かった。トムは、会いに行く前から父に会うのが怖いと言い、何かが起きる”予感”を感じていた。

スウェーデンの父の家で過ごす最初の夜、眠れずにそっと起きたトム。父もまた、起きていて居間のソファに座っていた。まるでトムが来るのを待っていたように見える。

「眠らないんだ。」「絶対に」「人とは違うものが見える。」「わかるか?」父はトムにこう話しかける。言葉だけではなくその様子からも、父が普通の人間ではないことを予感させる。さらに、眠らないと死んでしまうと答えるトムに、「死体に見えるか?」と父は聞く。

そして次の日、トムは1人で行ったトイレで人間ではない異形の顔をした恐ろしい男と遭遇してしまう。男の顔には穴が空いており、見るものに恐怖を与える風貌をしている。その日を境にその男はトムの前に時々現れるようになる。トムは当然その男に恐怖を感じるが、父に話そうとはしない。なぜなら、父はその男を知っている“予感”がするからだ。悪魔や霊など信じない兄は、トムによく冗談を言って脅かすが、「あの男は本当のお父さんじゃない。誰かがお父さんになりきっているんだ。」と言ってトムを脅かしたのは偶然ではないように思える。兄もまた、無意識に父に、普通でない何かを感じていたのかもしれない。

目の前にいる父は、本当に父親なのだろうか?

本当は、父親に似た何かなのではないかーーー。

そしてあくる日、突然の父の提案で、3人は湖の近くにある森のコテージへ出発することになる。森の中で父の行動は奇妙さを増す。ケータイの充電をわざと無くして外部との接触を断とうとするところから始まり、反抗する兄を強く怒ったり、明日出発すると言ったと思えば気分が変わったと話す。たまたま近くにやってきた若い3人組にも冷たく当たる。更に真夜中になるとコテージを抜け出し、苦しそうな嗚咽を漏らしながら森の中を歩き回っている。森の中で過ごせば過ごすほど、父は混乱していくように見える。

それと同時に、おまえは力を使える特別な存在なんだ、とトムに語りかけ、不思議な力を使うように促す。相手の考えを読むことや、トムが目撃した異形の男の存在をほめのかす。

コテージでの数日が過ぎた頃、そんな父に耐えられなくなった兄ベンは父と喧嘩し、そして置き手紙を残してどこかへ行ってしまう。そしてベンがいなくなってからがラストパートの始まりだ。父とトムはひたすら湖をボートで渡り続けることになる…。

その後の展開は観てのおたのしみであるが、結末の解釈はその人によって違ってくるだろう。結局異形の男は誰なのか?父は誰なのか?

この話は寓話、ホラー、サスペンス、そして友情、愛といった要素も含まれている。子供の目を通してみるダークで奇妙な世界。世界には人間にはわからない何かが存在しているということを改めて思い出させてくれると同時に、切なさや温かさともいえるのだろうか、不思議な感覚が残る映画である。

監督は『誰がバンビを殺したの?』(2002)で監督デビューをし、最近では『アナザー』(2015)の脚本を手掛けるジム・マルシャン監督。サスペンスやホラーテイストの作品を多く手掛けている。父を演じる俳優はジェレミー・エルカイム。彼は俳優としてではなく脚本家としても多くの作品に関わり、『わたしたちの宣戦布告』(2012)ではセザール賞・オリジナル脚本賞を受賞している。トムとベンを演じるのはオーディションで選ばれた2人の子役。幼い弟を演じたトムの、すべてを見透かしているような雰囲気がとてもこの作品に合っている。2人のたたずまいは落ち着いていて、少し離れたところからみると子供らしくない印象も受け、それもこの作品のなかで生きていた。

神秘的な森の中で起きるファンタスティックな物語を、是非ご賞味ください!

この作品を含め、映画祭では現在12本の長編映画と11本の短編映画も配信中!
また、2月2日~4日にはアンスティチュ・フランセ東京にて、映画祭配信作品の上映も予定されている。
IndieTokyoメンバーによるレビューブログもまだまだ続くので、お楽しみに!
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料金   :長編映画-有料(各配信サイトの規定により異なる)、短編映画(60分以下)-無料
配信サイト:青山シアター、アップリンク・クラウド、VIDEOMARKET、ビデックスJP、DIGITAL SCREEN
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※配信サイトにより配信作品や配信期間が異ります。
公式サイト:www.myfrenchfilmfestival.com
アンスティチュ・フランセ東京
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永山桃

早稲田大学3年生。二階堂ふみさんと、池脇千鶴さんと、田中絹代さんが好きです。イギリス留学予定。あとは、猫が好きなのに、柴犬をかっています。ワンワン!