『ジャングルの掟』
(99分/フランス/2016年)
監督:アントナン・ペレジャトコ
出演:ヴァンサン・マケーニュ/ヴィマラ・ポンス/マチュー・アマルリック

 「規格標準省」の研修員マルク(ヴァンサン・マケーニュ)は、遅刻のために予期せずして、アマゾン初の屋内スキー場の建設にヨーロッパの規格を適応するという任務を課せられる。聖書と等しく思うようにと渡された規格集を片手に、南米のフランス領ギアナへと向かうのだった。
しかし現地の様子は写真や模型と大きく異なっていて、スキー場はとても実現できそうにない。
 ともに視察に行った強気で快活な造園技師の女性研修員ターザン(ヴィマラ・ポンス)は「馬鹿げた計画」と一蹴するが、マルクは「公益にかなうプロジェクトだ」と反論し、二人は対立する。
その後ターザンの運転していた車がアクシデントにより使えなくなり、二人は徒歩での移動を余儀なくされる。警察に電話して助けを求めるも応答がなく、「スマホを信じて歩けば間違いない!」というマルクの主張により道を外れた二人は、ジャングルへと迷いこんでしまう。一方、二人がジャングルで迷子になっていることを知ったマルクの上司たちは捜索に向かうが…。
長編初監督作がカンヌ国際映画祭監督週間に出品されるなどの注目を浴びる監督のアントナン・ペレジャトコの長編第二作目となる本作は、2016年のカイエ・デュ・シネマ誌のベストテンに選出されている。

 フランス領土である南米の地に、とても実現できそうにないスキー場という自らの習慣を持ち込もうと熱心になる人々という設定は、どこか皮肉なものを感じさせられる。しかし単なる風刺的コメディー以上の魅力をこの作品からは感じることができるだろう。
 主人公のマルクはジャングルのみならず、自室や空港、機内、行く先々で不条理な目に遭遇する。殆どの場面に笑いがちりばめられていて、それだけでも終始楽しめてしまうが、映画が進むにつれ、ジャングルをさまよう二人の運命を予想できない、よりスリリングなものとするような要素も盛り込まれている。
ジャングルに迷い込んだ二人の物語は、最初こそ自然のなかでのサバイバルといった様子だったが、マルクがある夢を見たことや、タイプライターを手にしたことをきっかけとして、それまで予期しなかったような映画としての展開が広がっていく。
彼らはジャングルのなかで、そこに暮らす人々に出会っていく。ときにはラブストーリー、ときにはホラー映画、あるときにはアクションゲームのように、次々と繰り広げられる展開のめまぐるしさは、二人がジャングルに来た本来の目的が一瞬わからなくなってしまうほどだ。しかしマルクはスキー場という本来の任務を忘れず、役に立ちそうもない規格集を落としたことを悔やんだりする様子がどこか可笑しい。
例えば携帯を猿に盗られて使えなくなってしまうといったように、ジャングルが、主人公のそれまで抱いていた常識の通用しない不条理な空間として描かれるのは、何となく想像されうることであるような気がする。しかし、この作品のジャングルは、映画のなかの多彩な物語が密集した不思議な場所としての魅力を感じさせられる。

 うだつのあがらない、けれど泥だらけでジャングルをさまよう姿はどこか頼もしいようにも感じられてくるヴァンサン・マケーニュや、バナナをむしゃむしゃと食べナイフ投げを披露するヴィマラ・ポンス、ギアナ熱帯省の役人を演じた(扇風機で涼を演出する姿には大笑いしました)マチュー・アマルリックなど、キャストにも注目。
コメディーとしての笑いもあり、社会風刺的なブラックなユーモアもあり、アクションもあり、ラブストーリーもあり、映画そのものに対する意識を感じるような瞬間もあり、ラストはフランス映画らしい洒落も感じられて、とても多彩で、色々なところで楽しめる作品です。

本作品は配信のほか、2月4日17時よりアンスティチュ・フランセ東京での上映も予定されています。

この作品を含め、映画祭では現在12本の長編映画と11本の短編映画も配信中!
また、2月2日~4日にはアンスティチュ・フランセ東京にて、映画祭配信作品の上映も予定されています。
IndieTokyoメンバーによるレビューブログもまだまだ続くので、お楽しみに!
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アンスティチュ・フランセ東京
「スクリーンで見よう!マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」

吉田晴妃
現在大学生。英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。映画の保存に興味があります。