『スワッガー』 Swagger
(84分、フランス、2016年)

パリから車で40分ほどの郊外に位置するオルネー=スー=ボワ。
凄まじく林立する公営の集合住宅に暮らす住民の過半数は貧困層で、もっとも劣悪な環境とされる地区だ。

作品の大半は、テンポよく続くインタビューで構成されている。
話しているのはこの地区に暮らす11人の子どもたち。大人は抜き。
学校のこと、将来のこと、宗教のこと、素直に語る彼らのポートレートをカメラは正面から捉える。

喧嘩や麻薬の売買が日常茶飯事で、貧しい生活を送る中で彼らは決して悲観的ではない。
自分の環境を客観的に捉え、自分なりの未来を思い描いている。
問題を起こす麻薬の売人たちや、フランス語の読み書きができずに苦労する親とは一線を引きつつも、憎むことなく、仲間意識とともにしょうがないんだと受け入れる。

フランス人だが、フランス人ではない。
フランス人であるという誇りや喜びと、それでも生粋のフランス人ではないという疎外感や不安の間でアイデンティティーが揺らぐ彼らは、カメラの前では大人びて見える。
ディズニーランドに連れて行ってと親にせがむだろう年頃の女の子が、ディズニーはミッキーを使って世界を支配しようとしているなんて言い出すのだからおもしろい!

インタビューの合間に、挿絵のように挿入される彼らの学校の風景や、彼らのイメージを具現化したシーンが彩りを与える。
傘を持って街の中を歌って踊るシーンに、ヒップスターの一群が廊下を闊歩するシーンなど、ハリウッド映画のパロディのようなシーンには、違和感とともに子どもたちの純粋な憧れみたいなものが垣間見えて、思わずくすりと笑ってしまう。

監督のオリヴィエ・バビネは、本作が長編映画2作目となり、現在は”We are Familia”というアーティスト集団の一員としてミュージックビデオなども多く手がけている。
初監督した短編”C’est plutôt genre Johnny Walker”をパリ北部の郊外サン=ドニの学校や刑務所で上映会をする機会があり、そこで本作の舞台となるオルネー=スー=ボワにある学校の教師と知り合い、短編映画を作るワークショップをすることになった。その後、2年間に渡り週一回のワークショップを続け、子どもたちと交流を深めていく中で、本作の着想を得たという。
確かにそう言われると、子どもたちがカメラに向かってあんなに心を開いているのも納得出来る。

「パリにはフランス人がいっぱいいた。」という子がいたが、出身国を祖国として愛せる親の世代とはきっと違う未来が彼らには待っている。
これからもこの地区にとどまるのか、飛び出すのか、きっとそれぞれあるのだろうが、10年後どうなっているのかがどうしても気になってしまう。

この作品を含め、映画祭では現在12本の長編映画と11本の短編映画も配信中!
また、2月2日~4日にはアンスティチュ・フランセ東京にて、映画祭配信作品の上映も予定されている。
IndieTokyoメンバーによるレビューブログもまだまだ続くので、お楽しみに!
【第8回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間 :2018年1月19日(金)~2月19日(月)
料金   :長編映画-有料(各配信サイトの規定により異なる)、短編映画(60分以下)-無料
配信サイト:青山シアター、アップリンク・クラウド、VIDEOMARKET、ビデックスJP、DIGITAL SCREEN
短編のみ :GYAO!、ぷれシネ
長編のみ :iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix
※配信サイトにより配信作品や配信期間が異ります。
公式サイト:www.myfrenchfilmfestival.com
アンスティチュ・フランセ東京
「スクリーンで見よう!マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」

荒木 彩可
九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。