『パリ、ピガール広場』Les Derniers Parisiens
(106分、フランス、2017年2月フランス公開)
監督:エクエ・ラビティ、モハメド・ブロクバ
主演:レダ・カテブ、スリマヌ・ダジ、メラニー・ロラン、ヤシーヌ・アズゥズ

パリ、ムーラン・ルージュの隣に位置する歓楽街ピガール地区で、バー「ル・プレスティージュ」を細々と営む兄・アレスキーのもとに、2年間の刑期を終えて仮出所してきた弟のナスが転がり込むところから、物語は始まる。真面目で実直、堅実な兄と、手っ取り早く成り上がりたい弟。当然、うまくいくはずはない。5歳しか違わない兄弟なのに、アレスキーの顔は深い皺が刻まれ疲れ果てている。兄ではなく父親のようだ。対して、ナスはどこか稚気の残るやんちゃで人好きのする、ただし信用はできなそうな顔つき。一目でこの兄弟の関係性や性格が想像できてしまう配役が素晴らしい。弟・ナス役は、現在公開中の『永遠のジャンゴ』でジャンゴ・ラインハルトを演じているレダ・カテブ。

新宿の歌舞伎町然としたピガール地区は、近年、若者に人気のヒップな街である。治安はよろしくない。合法・違法の移民、移民二世が貧困にあえぎながら、あらゆる手段で日銭を稼ぐ生活で構成されている。久しぶりに戻ってきたその街を、ナスはあてどなくうろつく。昼間からクスリをキメた様相でふらつく男、路上のインチキな賭け事に貪欲な目つきで100ユーロを投げ出す女。しかし、夜の顔はガラリと変わる。所狭しとひしめき合うバー、クラブ、キャバレーが放つ猥雑なネオンに、洒落た風体の男女がどこからともなく寄って来ては、一夜の乱痴気に身を任せる。ナスの肩越しを追うカメラがとらえた街の映像は生々しく、バストアップを多用した人物ショットからは、その息づかいまでもが伝わってきそうな迫力がある。

監督は、結成20年を超えるフランスのラップグループ”La Rumeur”のメンバー、エクエ・ラビティとモハメド・ブロクバ(通称「アメ」)の二人組。本作が初の長編作品となる。まさにこのピガール地区で誕生した”La Rumeur”の彼らだからこそ知るリアルなパリの貧困は、出口のない息苦しさがありつつ、どんなことをしても生きてやるという図太さに溢れている。そのバンバンに張った生命力が、ビートのきいたクールなクラブミュージックに煽られて、品の上下が入り乱れた刺激的な雰囲気を醸し出す。音楽畑出身の監督ならではの表現センスが発揮された演出力には惚れ惚れとさせられる。

ただお洒落で格好良いだけではない。兄弟をめぐるドラマは、都会の生活に嫌気が差して店をたたむことを考える兄と、しけた店を最新のパーティースポットに仕立てたい弟の確執、兄の恋人で弟の保護司を務める女性や、弟にうまい話を持ちかける投資家が絡み、ノワール味を帯びたスリリングな展開を見せていく。

ドラマの合間には、盗み、違法売買といったピガールの負の日常が差し挟まれる。中でも印象的なのが、現金を手渡しする場面の数々だ。ナスも、その仲間もポケットからむき出しの札を引っ張り出して取引をする。娼婦もしかり、クスリの売人もしかり。兄のアレスキーはカード払いを試みるも、受け付けてもらえずに現金を友人に借りてガソリン代を支払う。その札は増えることもなく減ることもなく、彼らの間を延々と回り続けるのだろう。そんな彼らを尻目にカードを切って物事を押し進めていく投資家の姿が対照的だ。

一触即発にまで高まった兄弟の対立の行く末を、独自の視点と音楽で切り取ったパリ繁華街のナイトライフと楽しむ、これぞフランス映画という一本。味わい深い二段構えのラストにも注目。

この作品を含め、映画祭では現在12本の長編映画と11本の短編映画も配信中!
また、2月2日~4日にはアンスティチュ・フランセ東京にて、映画祭配信作品の上映も予定されている。
IndieTokyoメンバーによるレビューブログもまだまだ続くので、お楽しみに!
【第8回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間 :2018年1月19日(金)~2月19日(月)
料金   :長編映画-有料(各配信サイトの規定により異なる)、短編映画(60分以下)-無料
配信サイト:青山シアター、アップリンク・クラウド、VIDEOMARKET、ビデックスJP、DIGITAL SCREEN
短編のみ :GYAO!、ぷれシネ
長編のみ :iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix
※配信サイトにより配信作品や配信期間が異ります。
公式サイト:www.myfrenchfilmfestival.com
アンスティチュ・フランセ東京
「スクリーンで見よう!マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。