『クラッシュ・テスト』Crash Test Aglaé
(85 分、フランス、2017年8月フランス公開)
監督:エリック・グラヴェル
主演:インディア・エール、ジュリー・ドパルデュー、ヨランド・モロー

 うわ・・・なんなんだこの面倒臭い女は!仏頂面で意固地で、もし彼女が私の同僚だったらそっと距離を置くだろう。この映画の主人公アグラエに対する初めの印象だった。
 アグラエは自動車の衝突耐性実験の工場で働く若い労働者。この仕事を生きがいと思い、誰よりも厳しく業務をこなす。大嫌いなことは“予期しないこと”。週末はクリケットに情熱を注ぎ、それなりに日々に満足していた。そんな彼女の単純で平凡な毎日が、ある日突然一変する。勤めている工場がインドへ移転することになり、退職の危機にさらされてしまったのだ。インドへ転勤すれば仕事を続けられるが、どうするアグラエ。


 衝突実験を天職と信じているアグラエはインドへ行くことを決めたが、会社から飛行機代は出ないとのお達しが。同僚マルセルの提案でインドまで車で向かうことになった。もう一人の同僚リエットも一緒に。女たちの奇妙で可笑しな旅がはじまった。この二人の同僚というのがまたユニークな人物で、マルセル役のヨランド・モロー(ベルギー出身の個性派女優にしてコメディエンヌでもあるが、現在公開中の『女の一生』では主人公の母親役を演じていたりと振り幅が広い)と、リエット役のジュリー・ドパルデュー(ジェラール・ドパルデューを父に、ギョーム・ドパルデューを兄に持つフランスの女優。『ある秘密』での存在感も忘れ難い)が魅力的に演じる。それぞれ異なる世代の、家族でも友達でもない女性3人の、ましてやフランスからインドへの旅。大嫌いな“予期しないこと”が起こらないはずはないのだが、しかし何が何でもインドへ向かう。

 予期しないことの到来でアグラエはどんどん不機嫌になっていく。この、まるで子どもが駄々をこねているようにも見えるアグラエを演じるのは、アメリカ人の父とイギリス人の母を持つ1987年生まれのインディア・エール(インディア・ヘアと表記されることもある)。『夜、アルベルティーヌ』や『カミーユ、恋はふたたび』など日本公開された映画へも出演しているが、私が彼女を知ったのはこの映画が初めて。迂闊に近寄ったら飛び火しそうなこの主人公らしからぬアグラエの仏頂面は、しばらく頭から離れそうにない。そんなに眉間に力を入れてたら血管切れちゃうんじゃないのと思ったほど。

 決して人付き合いが上手いとは言えない、むしろ下手なアグラエが、行く先々で出会う人々、出来事。もはや予期できるものは何もない。砂漠を越え、草原を越え、ひたすら進み続けるその様子は、時にドラマティックに、時にファンタジーのように視界に広がる。しかしそんな物語の主人公だからと言って、アグラエが素敵な男性と出会って恋に落ちるわけではない。そこがこの映画のいいところでもある。若い女性が主人公だからと言って、恋をさせなくてもいいんだよね。
 旅の途中でマルセルとリエットが下すそれぞれの決断に立ち会いながら、アグラエも自分自身との対峙を迫られる。こうまでしてインドへ行く意味とは?そんなに仕事を続けたいの?…果たして彼女が選んだものとは。そしてインドへは辿り着けるのか。

 結果は見てのお楽しみだけれど、アグラエ自身が自分に衝突耐性実験をして様々な人や物にぶつかっていたのかもしれない。それまでのアグラエは破壊され、彼女の頑固さは逞しさに、仏頂面は強い決意の表れにいつしか変わる。一皮むけたアグラエ、いつの間にこんな魅力的な顏になっていたんだ!新たな女性ヒーローの誕生じゃないか!

 監督は、幼い頃からヨーロッパの映画に魅了されてきたというケベック出身のエリック・グラベル。フランスで様々な映画に関わりながら短編を撮り続け、『EAU BOY』で国内外の賞を受賞。この『クラッシュ・テスト』は念願の長編デュー作である。次回作が楽しみな監督がまた一人増えてしまった。

この作品を含め、映画祭では現在12本の長編映画と11本の短編映画も配信中!
また、2月2日~4日にはアンスティチュ・フランセ東京にて、映画祭配信作品の上映も予定されている。
IndieTokyoメンバーによるレビューブログもまだまだ続くので、お楽しみに!

【第8回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間 :2018年1月19日(金)~2月19日(月)
料金   :長編映画-有料(各配信サイトの規定により異なる)、短編映画(60分以下)-無料
配信サイト:青山シアター、アップリンク・クラウド、VIDEOMARKET、ビデックスJP、DIGITAL SCREEN
短編のみ :GYAO!、ぷれシネ
長編のみ :iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix
※配信サイトにより配信作品や配信期間が異ります。
公式サイト:www.myfrenchfilmfestival.com

アンスティチュ・フランセ東京
「スクリーンで見よう!マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」

鈴木里実
映画に対しては貪欲な雑食です。古今東西ジャンルを問わず何でも見たいですが、旧作邦画とアメリカ映画の比重が大きいのは自覚しています。