フェイクタトゥー がきっかけで始まった関係。もしフェイクタトゥーがなかったとしても始まっていたかもしれない関係。

舞台はカナダのモントリオール。18歳の誕生日を迎えたテオ(アンソニー・テリン)は、パンクロックのコンサートのあと、ピンクがかったブロンドの髪をした19歳のマグ(ローズ・マリエ・ペロー)に出会う。2人はすぐに恋に落ちるが、テオは夏の終わりに街を離れることになっていた。

監督は、ケベック出身のパスカル・プラント。本作品は2017年の新作モントリオールフェスティバルでベスト・カナダ映画賞を受賞し、ベルリン・フィルム・フェスティバルにも出品された。

「フェイクタトゥー」のアイディアがどのようにうまれたのかについて、監督は

「ロマンス映画がずっと好きだ。でも特定のストーリーになりやすいジャンルでもあるから、それにさらに自分自身の繊細さを付け加えたかったんだ。キャラクターたちに身を委ねゆっくりとした語り口の規律のない物語であるけれど、結果的に人間について何か知ることができる、そんな作品にしたかった。」と語る。

参照: https://variety.com/2018/film/festivals/berlin-2018-berlinale-facetime-director-pascal-plante-of-fake-tattoos-1202704693/amp/

・レビュー

作品全体を通して長回しの会話のシーンが多く、まるで彼らと日常を共有しているような感覚にさせられる。

スケートパークの淵に座ってサンドイッチを頬張ったり、クラブに行って踊ったり、夏休み中のデイキャンプで子供たちと遊んだり、古着屋さんに行ったり、自転車に二人乗りしたり。全てが夏の甘酸っぱい思い出。重ねて時々流れるパンクロックの音が、甘酸っぱさにビターな味わいを加える。まるでラズベリー味のブラックチョコレートのような、そんな作品だった。

部屋にダーティーダンシングのポスターが貼ってあったり、彼を待っているときに読んでいる本がキャッチャー・イン・ザ・ライだったりするところもマグというキャラクターに心魅かれる。

テオが旅立つ直前も、号泣したり何か特別なことを一緒にするわけではない。でもテオとの会話で時折みせるマグの笑顔にこちらがどうしても悲しくなってしまう。夜のひと気のないダイナーのテーブルの上で、テオの厚みのある手とネイルの色がとれかけたマグの細い指が絡まったとき、その温度で心の一部を溶かされたような感覚になる。溶けた心の一部は行き場を失って私の心に空白感をもたらす。それは温かくて、どこか夢のようにぼんやりしているそんな空白感である。

リアルタトゥーを肌に入れるのは確かに痛いし、たとえ消したくなっても消すことができないという自分への覚悟が必要になる。遠く離れてしまったからこそ、あの夏の日々が心に刻んだものは幸福と痛みの両方をもたらす。マグと離れ新しい地のタトゥーのお店で働くテオには、フェイクタトゥー ではなくもうしっかりとリアルタトゥーがきざまれている。

最後は、出会った日からちょうど1年の日だ。テオの誕生日であるという描写を通して初めてその時の流れを知る。電話口を通してテオが弾くギターの音も歌詞の意味も、出会った日にマグがテオに弾いたものとは全く違って聞こえる。マグとテオの夏が遠いものになった気がして急に寂しさが押し寄せる。

しかし、そのあとにマグの歌声が電話口から聞こえてきてふたりの歌声が合わさるときに、ひとつの空気がまた彼らを包み込む。

この後を考えずにはいられない。2人とも住む場所は違うし、きっとあのあともそのまま電話を切るのかな。2人はもう会えないのだろうか。ひと夏の恋、という言葉で終わらせるには彼らの日々は私の中に深く刻まれすぎている。

この作品を含め、映画祭では8本の長編映画に加え、多数の短編映画も配信中!

【第9回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間:2019年1月18日〜2月18日
料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編(60分以下)-無料
配信サイト:iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix
、MUBI、青山シアター、Uplink Cloud、U-NEXT、Beauties、VideoMarket 、ビデックスJP、GYAO !、ぷれシネ、Rakuten TV(短編のみ)、ほか
*配信サイトにより、配信作品、配信期間が異なります。配信サイトは変更、追加になることがあります。

公式サイト:​www.myfrenchfilmfestival.com

主催:ユニフランス

樋口典華
映画と旅と本と音楽と絵画がとても好きです。現在、早稲田大学1年生。