主人公のウィリーは言う。「ルーティンを嫌う人は多い。でも僕はずっと続いてほしかった。」
過去形なのは、ウィリーの日常が、双子の弟ミシェルの自殺によって、変化を余儀なくされてしまったからだ。

冒頭で、ミシェルを悼む為に作られた、ミシェルの人生を2、3分に纏めた映像が突如挿入されるが、それを見たウィリーが呆然とする姿が印象に残る。
死んだ後に、自分の人生を2、3分の動画で纏められることを想像するのは、少し恐い。

ミシェルの墓に、「いいのがなかった」という理由で勝手に自分の写真を使われたウィリーは(二人は顔がそっくりなのだ)、「俺は死んでいない、ここにいる!」と両親に怒りを露にし、弟と二人で叶えるはずだった夢を実現する為に、動き始める。

「ゴドゥベックに行く!」「家を持つ!」「スクーターを買う!」「友達を作る!」など、ミシェルとウィリーの夢が、カラフルなフォントと、現在のウィリーをハイスピードでとらえた映像で(ダサめのシンセ音楽と共に)、章仕立てで規則的に入ってくる。これが妙に癖になるリズムを作り出している。テンション高めの文字とウィリーの低めのテンションのギャップに思わず笑ってしまう。
このような、これは映画なのだと意識させる演出は、冒頭のミシェル追悼映像のように、人生を映像で纏め、勝手に編集する暴力性に、作者が自覚的だからなのかもしれない。

大切な身近な人の死をきっかけにして、登場人物が動き始める映画は多い。
そういった映画の大半では、登場人物が不幸を乗り越え、周囲の支えによって、立ち直っていくまでの姿が描かれる。
『ウィリーナンバー1』も、一見そのような映画に見えるが、「乗り越え」「立ち直る」には、1時間半では足りない、と作者は考えているのか、ウィリーは映画の終盤まで弟の亡霊と暮らし、その死を受け入れることすらできない。
ミシェルと夢見ていたことが現実になっていくことで、ミシェルの不在はより強調されていく。

落ち葉を拾い集め、たまにミシェルとドライブに出掛ける日常を愛していたウィリーは、同じ夢をミシェルとずっと見続けていたかったのだ。
愛する弟の苦しみに気付いてあげられなかった悔しさや悲しみに心が支配され、部屋でひとり涙を流すウィリーを見守る作者の視線は、とても温かい。

ウィリーは表情が乏しく、口も悪く、時々感情のコントロールが効かなくなるが(ウィリーが発達障害であること、また弟のミシェルもそうだったことがほのめかされている)、率直で嘘がないから、知人の女性に「頬がかわいい」と言って思わぬ笑顔を引き出すことができるし、心を閉ざした同じ名前を持つ同僚、ウィリーの心の扉を開いてあげられる可能性を秘めている。

夢を共有し、一心同体だったミシェルの死を、初めて人に打ち明けるとき、「友達を作る!」は、ウィリー固有の夢になった。
ミシェルの亡霊は去って行くが、ウィリーは夢の続きを生きていく。

人と心を通わせるって、いいなあと、映画を見て久々にそんなことを感じた。素敵な映画でした!


【執筆者紹介】
安川有果
2012年、大阪映像文化振興事業「CO2」に応募した企画が、黒沢清監督、山下敦弘監督らの選出を受け、初長編『Dressing Up』を監督。TAMA NEW WAVEグランプリなどを経て、2015年に全国で劇場公開。第25回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞。新作は、蒼波純主演の短編『永遠の少女』。



『ウィリー ナンバー1』Willy 1er(82 分、フランス)
監督:ルドヴィック・ブケルマ、ゾラン・ブケルマ、マリエル・ゴティエール、ユーゴ・P・トマ
主演:ダニエル・ヴァネ、ロマン・レジェール、ノエミ・ルヴォヴスキ

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