2017年3月3日から5日にかけて徳島県徳島市のあわぎんホールの大ホールと小ホールで、「徳島国際短編映画祭 2017」が開催された。すべてのプログラムは無料(一部整理券が必要)で鑑賞ができた。今回のテーマは、「映画音楽」であったが、そのテーマに相応しい数多くの短編作品が3日間を通して上映された。また、世界各国の映画が上映されただけでなく、ゲストを迎えたトークイベントなども行われた。
この映画祭のパンフレットには、「観る人とつくる人が一緒に盛り上げる短編映画祭」と記されている。そのコンセプトは、すでに映画を観ているときに感じられた。プログラムごとに数作品が同時上映される形式であったが、ひとつの短編作品が終わるごと観客席からは自然と拍手が沸き起こるのだ。ひとつのスクリーンに向かって一緒に鑑賞し、一緒に反応するという一体感を経験することができた。
また、プログラムのひとつである「札幌作品上映 チルドレン&ファミリー」では、その名の通り、子供から大人まで家族で楽しむことのできる作品群で組まれているが、そこでは声を出すことや笑ったり泣いたりするという感情を表現することが推奨されていた。一般の日本の映画館では静かにしていなければならないために、子供を連れて行くことを躊躇することもあるだろう。しかし、そのことに気兼ねなく、楽しむことのできる家族のためのプログラムも用意されているのだ。これは映画祭ならではのことである。

<「徳島国際短編映画祭 2017」のPV>

[『合唱』|クリストフ・ディーク監督|フィクション ドラマ|ハンガリー|2015]

ここからは上映された短編映画の中から選び出して紹介したい。まずは、「札幌作品上映 インターナショナルプログラム」の中のひとつとして上映された『合唱』という作品である。2015年のハンガリー映画で、第89回アカデミー賞の短編映画賞を受賞した。10歳の少女ジョフィーが合唱団で有名な学校へと転校してくるところから物語は始まる。そこで彼女はクラスの人気者であるリザと親交を深めていく。合唱団で才能を発揮するリザとは対照的に、ジョフィーはまだ練習を積んでいないためかそれほど歌が上手くはなかった。ジョフィーは合唱団を指導する教師から歌わず、口の動きだけを真似るようにと言われてしまう。実はそのように指導されたのはジョフィーだけではなく、同様の生徒がほかにもいたのだ。リザはそのことを不公平であると感じていた。合唱団のメンバーは教師への抗議を企てる。
この映画では、「合唱」がテーマになっていることから、「映画音楽」のテーマに相応しい作品であった。澄んだ美しい歌声は、映像を彩るだけではなく、それ自体が物語の軸となっている。非常に秀逸な音楽の使われ方である。また、本編の中の手を叩く音をひとつの音楽としても聴くことができる。それは子供たちの遊びの中の音でもあり、その弾けるような音が子供の無邪気さや躍動感を表現しているようであった。
国内の映画館で上映を希望し、多くの方の目に触れてもらいたい映画である。

<『合唱』の予告編>

Sing (Mindenki) | trailer from Kristof Deak on Vimeo.

<『合唱』の音楽>

[『どす恋 ミュージカル』|落合賢監督|フィクション コメディ|日本|2015]

次に紹介するのは、「札幌作品上映 ナショナル北海道プログラム」の中のコメディ映画『どす恋 ミュージカル』である。第11回札幌国際短編映画祭で最優秀国内作品賞と最優秀作曲賞を受賞した。太っていることを理由に大学でいじめを受ける台湾からの留学生の呉竜司が、相撲部の主将の玉木光太郎に助けられ入部することになる。しかし、あるできごとから退部に追い込まれてしまうが、復帰をかけて2人は立ち会いをすることとなる。
この作品の上映にあたっては、音楽を作曲した戸田信子さんが舞台挨拶のために登壇した。戸田さんにとって、今回が初の舞台挨拶であるとのことであった。相撲をミュージカルにした異色作(意欲作)であり、まだ日本にはミュージカルの土台が確立していないことを語った。音楽については、コメディのときこそ真剣に作曲をしなければならないということ、また相撲の稽古で、足を擦る音、突っ張りで肌がぶつかり合う音からリズムを刻んだことなどを説明した。
戸田さんは、音楽のみならず、キャスティングの経緯までも詳しく説明してくれた。主演の呉竜司役をYouTubeを巡りながら探し、結果として台湾人のリン・ユーチュンさんがその役を務めたこと、また撮影の前に音楽を作曲し仮歌は戸田さん自身が務めたが、その歌を渡した次の日にはリン・ユーチュンさんは完璧な日本語で歌を披露してくれたことなどである。リン・ユーチュンさんは音符が読めなかったが、耳で日本語の歌を完璧に覚えたのである。
ミュージカル映画では、日常の中の音がリズムを刻んでいき、音楽へと発展していく。この作品では、戸田さんが説明してくれたように、相撲の稽古や試合の際に起こる音がリズムとなり、ミュージカルの楽曲へとなっていくのである。相撲をミュージカルにしてしまうという発想は斬新である。本編では、相撲に合わせた躍動感ある楽曲だけでなく、バラード調の楽曲まで聴くことができる。また、クライマックスの呉竜司と玉木光太郎の試合の際の音楽は、器楽曲である。打楽器がリズムを刻み、ハリウッド大作映画のアクションシーンを彷彿とさせる音楽となっている。声楽曲と器楽曲の双方の音楽は、それぞれのシーンが持つ強弱や緩急をしっかりと定めてくれている。
現在、『どす恋 ミュージカル』は、dTVで配信されている。

<「誰にでも」 (『どす恋 ミュージカル』より)>

[トークイベント「クリエイターにとっての映画音楽とは!?」]

映画の上映だけでなく、いくつかのイベントも開催された。「クリエイターにとっての映画音楽とは!?」では、ゲストとして、川井憲次さん、戸田信子さん、加藤拓さん、ホストとして、菱川勢一さんが登壇した。
トークイベントは、まずそれぞれのゲストに関係する音楽が会場に流され、その音楽についてそれぞれが説明するという形式で始まった。川井憲次さんは、『攻殻機動隊』からの音楽であった。川井さんによれば、押井守さんは楽器から攻める監督で音楽に太鼓を提案したという。また、ブリガリアンヴォイスからヒントを得た楽曲であることが説明された。ブルガリアンヴォイスとは、ブルガリア地方に古くから伝わる女声合唱である。川井さんは、音楽制作のために、演奏できなくとも楽器を入手し、実験的に音楽を作り上げていく。そのような制作過程が、『攻殻機動隊』の一連の「謡」と名付けられた楽曲のサウンドを生み出したのだろう。
このトークイベントでは、戸田さんから多くの興味深い話を聞くことができた。戸田さんは、NHK総合『タイムスクープハンター』の音楽を担当した経歴を持つ。ゲームの分野では、『メタルギアソリッド』シリーズの音楽をハリー・グレッグソン=ウィリアムズと共に手掛けたことでも有名である。また、同分野における『Halo 5: Guardians』では、英国アカデミー賞音楽賞にノミネートされた。TVアニメの分野では、戸田色音の名義で、『一週間フレンズ。』や『甘々と稲妻』の音楽も作曲している。その作風は、派手なアクション音楽からキャラクターの繊細な感情を捉えた音楽まで幅広い。
NHK大河ドラマ『功名が辻』、『八重の桜』、NHK大河ファンタジー『精霊の守り人2 悲しき破壊神』などを手掛けてきた演出家の加藤さんは、トークの中で作曲家に音楽の要望を伝えることの難しさを話した。その中で、加藤さんは、音楽の希望を作曲家に伝える際に、既存の楽曲を提示しないようにしていると述べた。戸田さんは、それは創作にとってありがたいことだと返答する。創作に対する自由の幅を保つことができるからだ。さらに、そのことに関連して戸田さんの口から、「テンプトラック」という言葉が飛び出す。「テンプトラック」とは、どこに音楽が使いたいのか、また、どのような音楽を付けたいのかを、既存の音楽によって監督が作曲家に伝えるために用いられる。音楽の専門知識のないスタッフが作曲家に対して自分の音楽の意図を伝えるのに有効である一方で、「テンプトラック」を模倣したような音楽が作曲されてしまうことが大いに懸念されている。「テンプトラック」が付与されることで、新たな創作への想像力が奪われてしまうのである。
そこから、『インセプション』のような音楽がよくテンプトラックに用いられているという意見が挙がり、さらにその音楽を作曲したハンス・ジマーの名前が述べられ、4人のトークは広がっていく。また、戸田さんからは、ジマーが設立し、多くの映像音楽家が所属する「リモート・コントロール・プロダクション」について説明がなされた。戸田さんは、「リモート・コントロール・プロダクション」に所属するハリー・グレッグソン=ウィリアムズと仕事の経験があるのだ。
戸田さんからは、音楽だけでなく、映画における音全体の設計についても語られた。映像の中で起こり得る効果音のすべてが付けられているのではなく、映像に対する人の視点の動きからそこで見ているものを中心に限定的に効果音を付けていくのだという。すべてのものに効果音を付与すれば複雑かつ煩雑になってしまうのである。そして、そのように映像の中の効果音を削ぎ落としていくことで、音楽の入り込む余地を探すのである。
また、同じ音域で、効果音と音楽が衝突しないようにすることも音の設計では考慮されているのだと説明がなされた。

紹介したのは2作品だけであるが、3日間で50を超える作品が上映された。また、映画音楽のトークイベントだけでなく、トークライブや映像を制作するワークショップが行われた。さらに、「シネマオーケストラ『展覧会の絵』」と題して手塚治虫の実験アニメーション映画をオーケストラの生演奏と共に鑑賞する企画も行われたが、大盛況であったようだ。来年はどのようなテーマでどのような企画が行われるのか期待したい。

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。