かつて広告代理店に勤めていた監督のハーマン・ヴァスケは、ある時ひらめいた「人間の創造性とは何か、クリエイティブな人々を突き動かしているものは何か」という疑問に突き動かされるように、約30年間に渡り世界中の著名人にインタビューを行ってきた。

俳優やアーティスト、ミュージシャンや映画監督…誰もがその名を知るスターたちに、「あなたはなぜクリエイティブなのですか?」という問いを次々に投げかけていく。それはヴァスケ監督の長年の探求の成果であり(インタビュー映像にはテロップで撮影年が示され、映画が長い時間をかけて集めた映像を綿密に構成したものだとわかる)、まるで動く博物館とでもいいたくなるほどのアーカイブとしての充実感がある。一方で、次々に映画に現れる著名人の姿に「クリエイティブな人々とはいったい誰のことなのか」という疑問が浮かんでくる。もちろん一般的にクリエイターと呼ばれるような職業で成功を収める人がクリエイティブであることに全く疑いはないものの、だからこそ、誰もが「この人はクリエイティブな人だ」と納得できるような、あまりにもわかりやすい人々ばかりが登場するので、その前提として語られている「クリエイティブ」の定義が、何かの型にはまっているのではないかという気がしてしまった。
(例えば劇中でインタビューを受けたビョークは自身の家族について「自分とは違うやり方ではあるもの、彼らは創造的だと思う」と語っていたが、身近にいる誰かについて、何かを作り上げる人だからではなく、生き方や問題解決の方法がクリエイティブだと思わされることは時として多いように思う。)

映画は主に後半から、政治家や活動家へのインタビューを取り上げていく。そこで語られているのは、いかにして創造性が世界を変えていくのか、あるいはその創造性の根源はどこにあるのかということであり、単純に「クリエイター」と呼ばれている人々のものだけではない「創造性」が展開される。スター的に成功したクリエイターたちや、あるいは政治家たちの語る「創造性」は、その考え方から得られる新たな気づきはあるものの、その「創造性」が一体どんなものなのかははっきりわからず、想像するしかない。
しかし、映画の終盤、これまでヴァスケ監督がインタビューしてきた数々の映像をひとまとめに見せられたとき、そのボリュームが放っているエネルギーに感動してしまった。
場合によってはぶら下がり取材のように、あらゆる著名人にインタビューするチャンスを見逃さずにアタックし、時には質問の意味が理解してもらえなかったり、時には「また来たのか!(笑)」と冗談混じりに迎えられていたりもする。劇中でヴァスケ監督が取材する姿には笑いを誘われてしまうようなユーモラスな場面が多いが、私たちが笑っている間に、映画はいつの間にか巨大なアーカイブを築きあげてしまっている。
ヴァスケ監督はインタビューで、「周囲の目を気にして行動を起こせない”自分にだってできた症候群”こそが、創造性にとっての最悪の敵」だと語っているが、いったい他の誰が、ヴァスケ監督のように臆せずに、創造性について世界中を尋ね歩くことができるのか。そう考えたとき、まるで写し鏡のように、作中でひたすら尋ねられている「創造性」というものを体現した映画なのだと気付かされた。

『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』

監督/製作:ハーマン・ヴァスケ
出演:デヴィッド・ボウイ、クエンティン・タランティーノ、ジム・ジャームッシュ、ペドロ・アルモドバル、ビョーク、イザベル・ユペール、スティーヴン・ホーキング、マリーナ・アブラモヴィッチ、ヤーセル・アラファト、ボノ、ジョージ・ブッシュ、ウィレム・デフォー、ウンベルト・エーコ、ミハイル・ゴルバチョフ、ミヒャエル・ハネケ、ヴェルナー・ヘルツォーク、サミュエル・L・ジャクソン、アンジェリーナ・ジョリー、北野武、ジェフ・クーンズ、ダイアン・クルーガー、スパイク・リー、ネルソン・マンデラ、オノ・ヨーコ、プッシー・ライオット、その他大勢

2018年/ドイツ/英語・ドイツ語・フランス語・ロシア語・日本語/88分/ビスタ/5.1ch
原題:Why Are We Creative?/日本語字幕:杉山緑/R15+
提供:ニューセレクト/配給:アルバトロス・フィルム
Copyright (c) 2018 Emotional Network

公式サイト
10月12日(土)新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

吉田晴妃
四国生まれ東京育ち。大学は卒業したけれど英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。