「シスターフッド」とは、男性優位の社会において女性同士の新しい連帯をめざすさいに用いられてきた言葉である。全編がモノクロで構成されているこの作品は、タイトルからも理解されるように、フェミニズムをテーマとしている。岡崎京子の漫画作品『トーキョーガールズブラボー』を起点とし、監督・西原孝至が、東京で生きる女性たちの生活を映し出すことから始まった映画『シスターフッド』は、この撮りためられたドキュメンタリーフィルムに、フィクションシーンを加えることで制作された。

 フィクションとドキュメンタリーとを結びつける作品は特段珍しいものではないし、映画内で言及される佐藤真の言葉を借りるならば、そのどちらにせよ監督によって私的に構成されたフィクションなのだから、「「劇映画(フィクション)」と「ドキュメンタリー」の区分け自体には何ら意味がない」[1]。しかしながら本作品は、フィクションシーンの挿入によって、より豊かなものへと実を結んだだろう。たとえば作品序盤、映画監督の池田(岩瀬亮)がフェミニズムに関する新作のドキュメンタリー映画に関する取材を受けるというフィクションのシーンにおける記者とのやり取りは、現在の日本におけるフェミニズムの状況を端的に表現している。映画の内容について熱く語る監督のセリフと、それを冷笑的に否定する記者との自虐的な対話は、フェミニストたちと、フェミニズムについて知識のないものたち、それに感覚的に反感を抱くものたちとのあいだでしばしば発生する噛み合わなさを映しだしている。このようなフィクションシーンは、鑑賞者のそれぞれに「生きること」を省察させる契機となりうるし、また同時に女性たちを支えるものにもなるだろう。

 中心として描かれるのは二人の主人公、ヌードモデルの兎丸愛美と、ミュージシャンのBOMIであるが、そのほかにもさまざまな女性たちの姿が映し出され、彼女たちは、社会がもとめる女性像に自分を一致させることのないあり方で、つまり、自らを生きている。それは、「善く生きる」ということである。たとえば兎丸は、ヌードモデルを選んでから、女性としての生きづらさを感じることが少なくなったという。しかし、こうしてたんに女性が「善く生きる」ということを志向することそれじたいがすでに、現在の社会では困難なことなのだ。現在においても、生は平等ではない。だからこそBOMIはインタビューにおいて、フェミニズムの重要性を語りながらも同時にこう語るのだ。「結局、幸せって自分が決めるっていうか、感度の問題だと思ってて。幸せを感じる力が人生を幸せにするんだと思う」と。

 BOMIのこの言葉は、日々抑圧され、不安定で困難な毎日を生きぬく女性たちにとっての希望となるかもしれないが、その内実は、社会を変革することの困難さに直面した女性たちのSOSではないだろうか。この言葉は、男性側から放たれたとたんに、女性たちの闘争を諦めさせ、抑圧者の言説を甘んじて受け入れることを推しすすめるものとなるだろう。女性の社会的抑圧は、外部だけではなくその女性自身の内部においてもなお、色濃く残りつづけているのである。

 現在においても、生は平等ではない。相も変わらず人manは第一に男性manを意味しつづけている。生きづらさを「感度の問題」として個人の責任へと回収させないため、われわれは連帯しなければならない。そもそも社会規範や文化、慣習によって自己を組織化するわれわれは、元からして相互依存的な存在であり、そこから免れることがないということを忘れてはならない。フェミニストであると語る監督・池田のフィクションシーンを挿入しながら、女性同士の連帯をあらわす「シスターフッド」という言葉をタイトルに付すことで、西原は、その主導権を女性側に置きつつ連帯しうる可能性を模索しているのではないだろうか。

[1]佐藤真『愛蔵版 ドキュメンタリー映画の地平 世界を批判的に受けとめるために』凱風社、2009年、p.18。

 

3月1日(金)アップリンク渋谷にて公開ほか全国順次公開

『シスターフッド』

出演:
兎丸愛美 BOMI 遠藤新菜 秋月三佳 戸塚純貴 栗林藍希 SUMIRE 岩瀬亮

監督・脚本・編集:西原孝至  
製作・配給:sky-key factory
公式サイト:https://sisterhood.tokyo
予告編
https://youtu.be/yMa1xYi7vD0

 

■あらすじ

 東京で暮らす私たち。
 ドキュメンタリー映画監督の池田(岩瀬亮)は、フェミニズムに関するドキュメンタリーの公開に向け、取材を受ける日々を送っている。池田はある日、パートナーのユカ(秋月三佳)に、体調の悪い母親の介護をするため、彼女が暮らすカナダに移住すると告げられる。
 ヌードモデルの兎丸(兎丸愛美)は、淳太(戸塚純貴)との関係について悩んでいる友人の大学生・美帆(遠藤新菜)に誘われて、池田の資料映像用のインタビュー取材に応じ、自らの家庭環境やヌードモデルになった経緯を率直に答えていく。
 独立レーベルで活動を続けている歌手のBOMI(BOMI)がインタビューで語る、“幸せとは”に触発される池田。
 それぞれの人間関係が交錯しながら、人生の大切な決断を下していく。

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。