言われてうれしい言葉がある。それは褒め言葉であったり、好きな言い回しであったり。
でも、同じ言葉でも、全然うれしくないことだってある。言葉には”意味しかない”と頑なに思っていた事もあったけど、映画『螺旋銀河』は、もっと違うことを教えてくれる。

 

シナリオ学校に行きながらOLをしている綾と、職場のトイレでたまたま会った、お昼は屋上でご飯を食べている、違う部署の幸子。
綾はシナリオ学校でラジオドラマの脚本に選ばれたものの、先生から指摘されたことに素直になれず、共同執筆するように言われるものの、納得出来ないでいる。
そんな中、言うことを聞いてくれそうな幸子に、綾は友達のふりをしてもらい、形だけの共同執筆にしようとする。
幸子は自分とは正反対の華やかな綾に惹かれ、とても脚本に対しても協力的で、逆にその協力的な姿勢が、綾をイラつかせる。
ある時、二人には共通の知っている男性である、寛人がいることを知ることになるのだけど、寛人を巡る人間関係と、綾と幸子の共同脚本が交錯して行く…。

ラジオドラマの脚本を書き上げる、という内容も合間ってか、幸子と綾と寛人の声が心地よく感じる。
言葉を発する時の間(ま)からも、この人がどんなスピード感で生きているのかが、なんとなく伝わっきて面白い。幸子と寛人はゆっくりと、綾は少し急ぎ気味で。
そして、その間を繋ぐみたいに、言葉が発せられている。
幸子にとっては間の多い人生の中に、綾という間の少ない女性とどう関わっていこうか、模索しているようにも感じた。
そんな二人を見ていると、間だらけの人生で、私たちは、必死に言葉で人をつなぎとめようとしているんじゃないかと思う。

綾の書いた脚本の中の台詞で、何度も読まれる台詞がある。

 

欠点でさえ同じになりたい
傷や、痛みや、狂ったところも
あなたの身体に、もし大きな穴があいていたとしたら
私の身体のおなじところに、おなじ大きさの穴をあけたい

 

この言葉をもし、全く好きではない人からもらったとしたら?
映画内でも言っていたけれど、ちょっと怖い。
好きではない人と、同じ穴などあけられないと思ってしまうかもしれない。

でも、好きな人から言われたら、嬉しいと思う。
そして、好きな人ならば、お互いにその穴を埋めていけるかもしれない。

同じ言葉を聞いても、誰に言われたかで、その言葉の持つ意味はびっくりするほど変わってしまう。
たとえ同じ人から言われたとしても、10年後には全く別の感情かもしれない。
言葉に意味はあるけれど、意味と感情はまた別で、感情の速度の方が、きっと言葉の意味よりも速く届くのだろう。

何だか、宇宙を感じるなぁ。

綾と幸子の織りなすラジオドラマでは、意味だけの言葉に、また感情がのって、言葉が復活して行く様が描かれる。
彷徨い続ける言葉を、誰かが捕まえて、誰かに届ける。
タイトルにあるように、私たちの生きているこの世界は、螺旋のように、生活と、言葉とがぐるぐる回る銀河の中で、意味を持った言葉たちが、また光を放つように、誰かに届いて意味以上のものが届いていくのだなぁと、思った。
そして、そんな繊細なやり取りを、また私たちは性懲りも無く続けていくのだろう。

 

急に暑くなった最近の気候に、この繊細で、穏やかな心地のする映画は、癒しをもたらしてくれました。
『螺旋銀河』の監督でもあります、草野なつか監督作品『王国(あるいはその家について)』の上映会が、昨日から8/4(日)まで、三鷹SCOOLにて行われています。
『螺旋銀河』も、8/3(土)の16:00〜のみ上映がございますよ!
最終日8/4(日)の2回目は、映画上映としては珍しい試み「明転上映」を行うそうです。

是非、観に行ってみてください!
 
 
SCOOLイベント公式サイト
 
作品公式Twitter(@DOMAINS_movie)
 
予告編(王国~)
 
予告編(螺旋銀河)
 

住本尚子 イベント部門担当。 広島出身、多摩美術大学版画科卒業、映画館スタッフとして勤務、映画と美術の懐の深さで生きています。映像制作、イラスト制作、もがき生み出し、育て中