今週末、3月22日(金)から24日(日)まで、鎌倉市川喜多映画記念館にて開催される特集上映「日本映画の新しいカタチ」より、上映作品のひとつ『みつこと宇宙こぶ』(竹内里紗監督、2017年)をご紹介します。

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 中学生のみつこは、前の席に座っている浩一の首にある大きなこぶに興味深々で、観察日記をつけている。教室では変わり者と思われているらしく、親しげに話しかけてくるのは実は担任の先生に恋しているという幸之助だけだ。
 家では恋に夢中な姉との二人部屋の中、スノードームのような模型を作ったり、こぶを想像して絵を描いたりしている。
今度の校外学習では二人組のペアを組まなくてはいけないけれど、みつこはまだその希望を提出していない。

 みつこがこぶのことを夢想するシーンでは、こぶにメスを入れて解剖している。固いこぶの中から青い不思議な液体が出てきて、こぶが次第にしぼんでいく。
 ある出来事をきっかけに、ずっと関心を抱いていたこぶがなくなってしまった瞬間、みつこは教室から駆け出していく。その姿は彼女自身も閉ざされたこぶからはじき出されていくようにも思える演出で描かれている。
 みつこは冒頭で、こぶに対する尽きない興味について「こぶのことがわかれば、他のことだってわかるような気がする」と語っていたけれど、こぶは外側から切りわけられるものではなく、内側から破裂してしまうエネルギーをもったものだったのかもしれない。

 ラストへの展開は、ああ良かった!と微笑ましい気持ちになってしまうし、スタッフロールとともに描かれる登場人物たちの姿には可愛らしさを感じてしまう。それは何かを自分の置かれている状況とは切り離して観察するような、俯瞰した視点だからこそのものだろう。
 目に写るもの全てでしりとりをしてしまうような、きらきらとしたみつこの視点が描かれている一方で、そのこぶに対する興味は、未知のものへ対する好奇心から空想が膨らみ、次第にこぶのことを考えることで嫌な現実から逃れられる、現実を生きるひとつの手立てのように変わってゆく。例えばみつこの描くこぶの絵や、幸之助が観ている劇中の映画からは、この映画に対してファンタジックで不思議な印象を抱かされてしまう。けれど、みつこ自身が「こぶに守られている」と語るように、彼女にとって楽しいことばかりが起こる世界ではない。けれども赤飯の小豆に対して、これはこぶ、こぶ…と必死に念じて思いを馳せているみつこの姿は、映画の観客である私からするとかなり笑ってしまう。
 幼い日のみつこが動物園に遊びに行った思い出が、キラキラとしたスノードームの中に閉じ込められているように、みつこも中学生だった日々を遠くから思い返すことがあるのかもしれない。映画が出来事の当事者として登場人物たちの視点、そこから距離を置いて、その世界をファンタジックなものに見せようとする視点の二つを同時に持っているように感じた。

特集上映では他にも、同じく竹内里紗監督による『感光以前』、山本英監督の『小さな声で囁いて』、藤元明緒監督の『僕の帰る場所』の計4作品が上映されます。
(『小さな声で囁いて』特集レビューはこちら)
各日監督をゲストに迎えたトークイベントも予定されています。
毎年日本の若手映画作家を紹介しているこの特集の、今年のテーマは「リトル・ヴォイス」。
私たちが日常の中で経験する戸惑いやわだかまり、はっきりと声にはならないシグナル。境遇も年齢も異なる人々がそれぞれの世界で迎える大きな変化、その一つ一つの小さな兆しに寄り添う、そんな映画が上映されます。

特集 <日本映画の新しいカタチ>
開催:鎌倉市川喜多映画記念館 3月22日(金)、23日(土),24日(日)
料金:1,000円 (小・中学生500円)
主催:川喜多・ K B S グループ(鎌倉市川喜多映画記念館指定管理者)
チケットお取扱店:
記念館窓口 0467-23-2500
たらば書房 0467-22-2492
島森書店(鎌倉店) 0467-22-0266
上州屋(大船駅前) 0467-43-1000
上映予定・時間帯の詳細は公式サイトをご確認ください。

『みつこと宇宙こぶ』 2017年/DCP/40分
監督・脚本:竹内里紗
脚本協力:峰尾賢人
撮影:松島 翔平
出演:小松未来、金田悠希、島野颯太、宮野叶愛、篠崎夕夏、根矢涼香、坂井昌三、永山由里

吉田晴妃
四国生まれ東京育ち。大学は卒業したけれど英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。