舞台はミャンマーのマンダレー。1959年、貧しいピアニストのニェインマウンは、歌のレッスンに来た富豪の娘ターと恋に落ちる。結婚を反対された二人は駆け落ちしようと約束するが、アクシデントが起こりすれ違ってしまう。ターは親が決めた許婚と結婚式を挙げ、ニェインマウンを招きお祝いに歌を演奏させる。ニェインマウンは同じ歌謡グループの歌手と結婚しひと時の幸せを得るが、彼女は息子を産んで帰らぬ人となる。
 20年後、息子は音楽の才能ある大学生へと成長していたが、彼の惹かれあう相手がターの娘であることを知ったニェインマウンは、彼らが水かけ祭りで一緒に歌うことを頑として認めようとしない。

 水かけ祭りはミャンマー旧暦の年末にあたる4月12日ごろから数日間、ミャンマー各地やタイなどで行われる伝統のお祭りで、特にマンダレーのものは盛大なことで知られているという。
物語は1959年の水かけ祭りから始まり、それから20年後の水かけ祭りで幕を閉じる。劇中では水かけ祭りの様子が二度描写されているが、その二つを比べただけでも時代の流れについて考えてしまう。50年代の水かけ祭りの様子は、映画が製作されたのが1985年なのできっと再現されたものなのかもしれない、大きな白鳥が乗った山車はひとつしかないし、祭りに参加している人々も、群衆というほど大勢ではない。舗装されていない道の上を進む山車に乗った若者に娘たちが水をかける、どこかゆったりとした時間が流れている。まだ登場人物もはっきり明かされず、マンダレーという舞台を紹介するかのように祭りと人々の様子が描かれる。
 対してそれから20年後の水かけ祭りは、おそらく製作当時の風景なのか、山車の台数もずっと増えていて、野外ステージも出てあちこちで歌や踊りを披露している。それを楽しんでいる人々もずっと多く賑わっていて、みんな手拍子を叩いて盛り上がっている。昼夜を問わず歌い踊り、蒸し暑そうな夜に電球の明かりが映える風景は日本の夏祭りの雰囲気も思い出させられた。
 山車の上で楽器を揃えて演奏する主役たちの姿はまるでバンドのようだし、ロックを流しながらバイクに乗って登場するニェインマウンの息子のいとこ(彼は仲間から「西洋かぶれ」と言われていたりもする)の姿は,当時の欧米の文化の存在も感じさせている。
 二つの水かけ祭りの違いが、本当に時代の変化に根付いたものなのかはっきりとはわからないけれど、製作当時の水かけ祭りの熱気が映像に収められていて、映画が物語を紡ぐだけでなく時間を記録するものでもあるということを再認識させられた。
 会場で配布されていたパンフレットに掲載されている、ミャンマーで映画保存にも携わる映画監督のオッカー氏の話によると、最近では「水かけ祭りのスタイルも昨今はだいぶ変化して、K-POPのエレクトロミュージックのDJに乗って人々が踊るといったものにも」なっているそうだ。(ネットで検索してみると、歌や踊りというよりも、バケツやホースで容赦なく水をかけ合い、大雨の後のようにびしょ濡れになって楽しむお祭り、といった様子が出てきた。)
 この映画は、ミャンマーで公開当時大ヒットした国民的な作品だという。ミャンマーの映画についても歴史についても全くの浅学な自分が楽しめるだろうかと、何かひとつの固定されたイメージについてどう捉えるのかといった気持ちで映画を観たけれど、そこには今では現地でもあまり見られないのかもしれない風景、その向こうにはもっと昔の時代もあり、その奥行きをいつの間にか横断するような映画だったのかもしれない。フィルムからは経年を感じさせられることもあったが、それは今自分が映画を観ている時間や、かつて見知らぬ誰かが同じ映画を観た時間だけでなく、劇中で描かれる二つの世代など、映画が持っているのかもしれないいくつもの時間の層について感じさせられる瞬間でもあった。

 映画は劇中の「芸術はみんなを楽しませるためのもののはずだ」という言葉を体現せんばかりに音楽とダンス、それを楽しむ人々で溢れている。祭りと並行して描かれる、2世代に渡る恋の物語もハッピーエンドを迎える。ノスタルジーだけでなく、ポジティブな活気と人情に満ちていて、老若男女問わず国民的に親しまれる映画と聞いて納得の作品でした。

「ラララ東南アジア[クラシックス]」は、アテネ・フランセ文化センターにて明後日2月2日まで開催中。『水かけ祭りの雨』も、2日11時20分より再び上映されます。今回の日本初上映にあたり、マンダレーよりプリントを取り寄せ、日本語字幕は劇中の台詞を聞き取って制作したとのこと。貴重な機会をどうぞお見逃しなく。

特集上映公式サイト
【主催】国際交流基金アジアセンター|アテネ・フランセ文化センター 
【特別協力】東京国際映画祭
【協力】福岡市総合図書館|Shaw Brothers|Yee Myint Film Company|Cherdchai Productions|Viva Communications, Inc.|Garin Workshop

吉田晴妃
四国生まれ東京育ち。大学は卒業したけれど英語と映画はまだまだ勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。