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 早くも5日目が終わろうとしている東京フィルメックス2017。今回取り上げるのは『シャーマンの村』と『氷の下』の2本。それぞれあと一回ずつ上映が残っています!

 

●『シャーマンの村』(Immortals in the Village, 2017)

 

 監督は『最後の木こりたち』(2006)、『サバイバル・ソング』(2008)、『独り者の山』(2011)で知られるユー・グァンイー。フィルメックスではもう常連の監督である。

 今回題材として選ばれたのは「シャーマン」。過去3作と同じく、自身の出身地、中国・黒竜江省での出来事だ。

 シャーマンとの出会いは『最後の木こりたち』を撮影していたときで、いつか撮りたいという思いがずっとあったという。上映後のQ&Aでは、「医療費が高く病院に行くことができない人はシャーマンを精神的な拠り所とする。神の導きに従って人間はどのように行動するのか、ということが描きたかった」と語った。

 この作品では、特別な能力を持つシャーマンとしての姿だけでなく、シャーマンという職業で生きていく男たちの姿も克明に描かれているのが印象的だ。村の人々が、精霊やシャーマンという存在とどのように関わり合いながら生活しているのか、この109分にはその様子が詰まっている。

 最後、「村の人々はもうこの作品を観られたのですか?」という質問には、「まだです。でも、彼らは以前の作品を観て、村の生活がリアルだと言ってくれた。シャーマンの数はどんどん減っているのが現状だが、映像として記録することで、子孫に伝えていくことができる」と返した。この映画は、たった今消滅しようとしている文化を捉えた一つの記録なのである。

※2回目の上映は、23日(木・祝)21:15から。

 

 

●『氷の下』(The Conformist, 2017)

 監督はツァイ・シャンジュン。フィルメックスへの出品は前作『人山人海』(2011)に続いて2回目となる。

 

 

 本作では、中国とロシアの国境付近にある街を舞台としており、警察へのタレコミを職として不安定な生活を送る男ボー(ホァン・ボー)の様子が描かれる。裏舞台で生きる主人公に突如現れる美女、漂う閉塞感に暗い画面、とフィルム・ノワールを彷彿とさせる作品だ。

 監督は製作動機について、上映後のQ&Aで次のように語っている。「前作では中国に対する怒りや批判を表現したが、今回は、大きく変化する社会の低層で生きる人々を取り上げたいと思った。中年のいわば負け犬のような男が、どういうふうに普通の男として生きていけるか、ということを描きたかった」

 そういった考えは、場所の設定にも表れている。舞台となったハバロフスクは、少し前まで金儲けのできる街として知られており、どうにかしてチャンスを掴もうとする人々の集まる、欲望と犯罪の温床とでもいえる場所だったという。「冷たい土地に埋もれている燃えたぎるような人間の心」を描くには最適の場所だった。

 寒冷な場所と熱い心の対比に関連して印象的なのが、随所に現われる動物のショットである。ゴミ箱の中で動き回るカラス、氷の下で泳いでいる魚、物語の最後に登場するある動物。それらが全て「見えないところ」で動いていることも見逃してはならない。つまりここに登場する動物は闇社会で生きる男のメタファーであり、人間の持つ動物性を表すものなのだ。

 一人の男がどのような状況で何を選択し歩みを進めるか、「一筋縄ではいかないストーリーの構成」はまさに、不安定な社会で蠢く「流れ者」(conformist)に共鳴するのかもしれない。

 ※2回目の上映は、22日(水)21:15から。

 

 

原田麻衣

WorldNews部門

京都大学大学院 人間・環境学研究科 修士課程在籍。フランソワ・トリュフォーについて研究中。

フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。