「今日も 眠って 生きていく」──舞台は北区。床ずれができるほどよく眠ってしまう主人公の静かな日常が少しずつ揺らいでいく。映画『ふゆうするさかいめ』が、6月12日(土)から18日(金)まで池袋シネマ・ロサ「インディーズ・フィルムショウ」にて公開されます。
それに先立ち、劇場用パンフレットの企画として行われた監督の住本尚子と空族・相澤虎之助による対談から、ロングバージョンとして採録を紹介します。
イラストレーター・コラムニストとしても活躍する住本尚子は元IndieTokyoメンバーでもありますが、長編初監督作となったこの映画をどのように作っていったのか?初の劇場での公開を前にした今、何を感じているのか?”作りたい映画を勝手に作り、勝手に上映する”をモットーに活動を続けてきた映像制作集団・空族の相澤虎之助の視点を交えて語っています。

なお、この対談は劇場にて販売されるパンフレットにも収録されています。当記事とは異なる内容で、監督が短編映画の経験から本作に活かしたある意識や、相澤虎之助が寄せたコメントについても語られています。こちらもぜひお手にとってみてください。

相澤:最初に僕が見たのは日暮里にある古い民家を改装したアートスペースの上映で──行ったら古い民家の2階に布団が敷いてあるんですよ。「寝ながら見てください」なんて言われて(笑)。だから最初は実験映画みたいなものを見る雰囲気で見に行って、それで布団に寝っ転がりながら観たんですけど全く一睡もできずに非常に引き込まれまして、僕の場合はぎゃあぎゃあ騒いで一緒にいた友達がうるせえな!みたいな感じでした(笑)。結構ね、僕は観ながら騒いでいたんですよ。「これすごいよ!」みたいに。観てて気持ちよかったですよね。ここで切るっていうところでバキッとカットが分かれたりとか、あとはフレーミングとかもすごい。僕に合っていただけなのかもしれないけど、僕からすると、すごく只者じゃないという雰囲気で嬉しくなりましたよね。最初はそんな思い出があります。
住本:2階で騒いでいたんですね(笑)。「なにか聞こえるなー」とは思っていたかもしれないです。途中から静かになった覚えもあります。
相澤:そうそうそう。最初騒いでてね、それで最初の何分かくらいで自分でも判断して、これは良いことか悪いことか知らないですけど、なんというかすごく「あぁ、これは映画だ」と…そういうので、観終わった後に絶対続けた方が良いよ、と言った思い出があります。なんか偉そうですみません(笑)。
住本:映画作りは大変だけどね、という風に言ってくれて、「そうなんですよ!」って。空族も大変だとお聞きして──場所を撮ること、ロケハンとか、ロケで撮影をする時ってどうされてますかって聞いた時、本当に同じように電話してみたり、直接聞いてるよって言われて、「あぁ、空族も私と一緒なんだ」と。一緒の苦労を話せて、その時すごく救われましたね。
相澤:映画をやる人、特にインディペンデントの人はそれをやってるよね。チラシを見たら、僕たちの尊敬する矢崎仁司監督が「天才だ」と言っているという。僕は正直に言わせてもらうと、天才だと思いました。一瞬。
住本:うわーありがたいです!一瞬ね、一瞬でもよぎってもらえると…(笑)
相澤:あんまりね、こういうこと言わないんですけど。才能があるとかないとか好きじゃないから。自分たちも大してないし。でもね、ほんとに監督は映画をやった方が良いって久々に思いました。

住本:難しいですよね、映画って。観てもらって色んな人から感想をもらうんですけど、褒めてくれる人とそうではない人がいて、褒めてもらえたらこのまま進もうって思う反面、誰かにここが良くないよって言われたら見直さなきゃいけないな、って思います。
相澤:逆にどこがダメって言われたの?
住本:まずは何が言いたいのかわからないと言われました。謎をちょこちょこ入れているので、それは言われても仕方ないと思うこともあるんですけど。あとはなるべく映画の中で説明はしないように心がけて作っていたんですけど、演出が説明的に感じると言われたり、マリノとミノリをもっと中心に描いた方が良かったんじゃないかとか、マリノの境遇ももっと孤独を描いた方が…とか、そういう設定についてだとか、いろんなことを言われて、確かに、と思ったりもしたんですけど。あんまり届いてないなって思った時は感想を聞いた時に相手の表情でわかるじゃないですか。最初の言葉を発するあの一瞬で、この映画が届いたか届いていないかっていうのはすごく感じました。
相澤:人それぞれ、どういう映画を観たいかっていうか、「自分が求めてる映画」っていうのが多分あって、そこからズレていくとそういう意見が出るっていうのは、僕たちもただ経験してきたことなんだけど。でもこの映画の描いていることっていうのは、一見して僕たち空族の描いているものとは全然違う世界というか、僕たちのは不良とかが出てきたりジャンキーとかが出てきたり…そんな映画ばっかり撮ってるから、一見合わないように思うかもしれないんだけど、僕はすごく面白かった。後から細かい設定のこととかはあるけど、そういうのは僕もそんなに気にしないで、普通にこの映画のこの3人を見ていて非常に楽しかったし、気持ちがよくわかったし、とにかくなんて言うんでしょうね、矢崎監督もよく言ってるんですけど「見る人それぞれが感じれば良い」と。映画は見た人が感じるもので良い、と昔仰っていたのが僕も心に残ってます。これは長編1本目ですか?
住本:1本目です。実は短編をこの前に1本撮ったことがあったんです。『オとセとロ』というタイトルで、白と黒の間…みたいな映画を作ったんですけど、その時は本当に反応が、良かった!って人と、あんまり良くなかった!って人とすごいわかりやすくて。
相澤:白黒はっきりしちゃったんだ(笑)
住本:白と黒の間についての映画を作ったのにめちゃくちゃはっきり分かれてしまって(笑)。その時にすごく反省したことがあって、それを自分の中で活かしたり…
相澤:でも、非常に物語になっていたと思います。あと、あの布団工場も最高でしたね。

住本:いい所ですよね。歴史がすごくあるところで、なかなかあんな風に販売所と工場を残しているところもないみたいですね。
相澤:本当の工場の中でビシッと撮影してる、みたいなのがすごく良かったし、なかなか自主映画で難しい部分でもあるんだよね。そういうところを借りて撮影するっていうのは、交渉から全部やらなきゃいけなくて。
住本:本当は北区というか、十条で全部撮りたかったんです。十条で場所を探したんですけど、撮りたいと思っていた喫茶店には断られてしまったり、布団の工場とか販売所とかも結構探したんですが…ミノリが布団を作る作業のシーンがあるんですけど、職人からちょっと触るだけのシーンでも「布団なんてそんなにすぐ作れるもんじゃない、何日もかけてやるものだから」って断られてしまったりとか。私の布団の勉強も──布団って本当に人によって色んな考えがあるんですよね。販売員の人もこれが良い、と思っている布団でやっていらっしゃるので、私の書いた脚本とはまた違った理念だったりして「もっと勉強した方が良いよ」って言われて泣きながら帰ったりとか(笑)、結構色んな場所で断られながらやっていたんです。
相澤:本当にその甲斐があって…そういうのもやっぱり伝わりますよね。ちゃんと撮影したものっていうのは。映画を自分たちでやるってなると全部自分たちでやらなきゃならないから。だからその話をしたんだよ、「大変だよねぇ」って。
住本:そうですよね~本当に(笑)!
相澤:映画作ってる人間同士が話すと大体そうなる(笑)
住本:苦労話に(笑)。でも一緒のところが大変って聞いてすごい安心したんですよ。ロケをお願いするのが一番大変だよっていう。タイで『バンコクナイツ』を撮影されている時も大変だったという話を聞いて、励まされたというか。
相澤:だから撮影をしている瞬間っていうのはある意味非常に楽しいですよね。映画の制作の間で撮影してる期間っていうのは実は短くて、準備期間が長い。それから宣伝して公開して、そこが長くて、撮影自体は凝縮された期間になりがちというか。
住本:一番人が集まっている時間ですよね、撮影って。
相澤:ぶわぁっとやって、また夢のように去っていく…(笑)。そんなことを繰り返すんだけど、本当にこうやって映画館での公開まで漕ぎつけたっていうのは非常に嬉しいです。
住本:本当に恵まれたと思います。
相澤:本当にいっぱい色んな人に見てほしいですね。

住本:宣伝は少し難しいところもあって、北区で撮ったのでいっぱい飲食店にチラシとかも置いて、写真も撮って、ってやりたいんですけど、緊急事態宣言が出ちゃったりとかもして、お店に行っても開いてなかったり。
相澤:大抵こういうチラシは飲み屋さんとかに配りに行くんだけど、その店がやってないってなると、なかなか…
住本:コロナ禍じゃなければ本当は、チラシ持って行っては飲んで、べろんべろんになって、めっちゃ楽しかったはずなんですよ(笑)。マリノのママの役をやってくれた方も、十条で「Kitchen&Bar ひ」というお店をやっていて、そこに十条の飲食店の方とか飲み仲間が集まってて、そこで出会った色んな人に協力をしてもらっていて。布団をもらったりとか(笑)、本当にお世話になった場所です。十条の方々は人情がすごくあるんですよね。皆さんに観に来てもらいたいなと思っています。
相澤:これを言うと野暮になるから監督にそれを聞くのはあれかな、見てくれる人におすすめの見どころというか、ステイトメントには書かない隠し味みたいなのはないですか(笑)。僕は気づかないからね、そういう…。
住本:脚本で、途中で足した台詞があるんですよ。公園でマリノがマモルに寝技をして倒れ込んだあとの、「小さい頃から色んなことできないし、家族にも何にもしてあげられなくて。それでも寝て起きて、仕事に行くことはできると思ってる。それで良いのか、全然わかんないんだけど」っていう台詞は、結構直前に入れたんですけど、自分の本音というか、一番この映画の中で「自分」を書いたみたいなところがあって…その台詞を、何人か「良かった」って言ってくれる人がいてくれて。それを聞いた時に入れて良かったなっていうか、自分の気持ちをちゃんと脚本に入れて、マリノちゃんに喋ってもらって良かったなっていうのをすごく思いました。
相澤:そういう、その一言があるからあとは説明しなくて良いっていう台詞っていうのはあるんですよね。さらにそれ以上、観ている人に対して、ある意味サービスとして、キャラクターがいてこういう人で、これはこれで…みたいな組み立てというのをやっても良いとは思うんですけど、僕もホンとかを書く時に「この一言があるからこの人物はこれでOK」っていうのはやっぱりありますね。そういうのを自分で開拓していって…「俺はこんなんだけど生きてて良いんでしょうか」みたいなね(笑)。

住本:そこが一番言いたいところですよね(笑)
相澤:なんか肩身が狭くてね…(笑)
住本:なんでですか!
相澤:本当に肩身が狭いもの今でも。映画なんてやってると。
住本:肩身が狭いですか…空族に言われたら悲しい(笑)。空族にはそんなこと言ってもらいたくないですよ!やっぱり憧れですからね、自分たちの力で作って、自分たちでやってるっていう。励みになるというか、こういう風に作っていきたいな、みたいな。毎回の映画にずっとテーマがあるじゃないですか。空族の映画を観ていると、それがすごく伝わるんですよね。そういう気持ちというか、気持ちから作る映画を作っていきたいので、本当にすごく憧れですよね。
相澤:ありがとうございます。次回作も楽しみです。本当に、あの、なんというか…なんか…
住本:なんでしょう(笑)
相澤:先輩風吹かせるみたいな台詞になっちゃうけど、一緒に映画頑張ろうみたいな。
住本:おぉ!そう思ってもらえると嬉しいですね。私も今回初めて劇場で上映、となってから、周りでインディーズでやってる人たちの作品をやっと見るようになったというか。今までやってるなぁと思いつつも、勉強のために先人の色んな方たちの映画を観るみたいな意識が多かったり、自分の趣味で観ていたけれど、もうちょっと、自分の横で作っている人たちの映画ってどんなものなんだろうとか、そういうところを見るようになったと思います。一緒に頑張っている仲間がいるじゃないか、みたいなことを最近思えるようになったというか。私は映画学校を出ていないので、もともと仲間みたいな人がいなくて。本当に自分でお願いします、お願いしますみたいな感じでやってた分、今からでも一緒に頑張ってる感じが欲しいなぁ、みたいな。
相澤:何かあれば良かったら言ってください。おじさん達も頑張りますので(笑)。こういうのも横の繋がりだからね。過酷な道を選んでしまっていますが(笑)。

『ふゆうするさかいめ』作品レビューはこちら

『ふゆうするさかいめ』
監督・脚本・撮影・編集:住本尚子
出演:カワシママリノ 鈴木美乃里 尾上貴宏 ハマダチヒロ 南波俊介 笠井和夫 笠井正子 小島博子 小島信一 横井心梛 伊藤はな
2020 年|日本|カラー|ビスタ|65 分|英題:Floating Borderline
公式サイト
©︎NAOKO SUMIMOTO
6月12日(土)より池袋シネマ・ロサにて一週間限定レイトショー

吉田晴妃
四国生まれ東京育ち。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。