『ハリー、見知らぬ友人』でセザール賞を受賞したドミニク・モル監督の新作『動物だけが知っている』が東京国際映画祭コンペティション部門に出品されている。

フランスのとある街。吹雪の中、一人の女性が失踪した。
その街で暮らすアリス、その愛人ジョゼフ、パリのレストランで働くマリオン…と次々に物語の視点を変えながら、事件前後の日々が描かれる。5人による5つの物語が、時にパリ、アフリカへ舞台を移しつつ、壮大な環を描いて徐々に真相を明らかにしていく。
しかし、本作は決してミステリーではない。失踪事件の真相が明らかになること自体は目的としておらず、その出来事が起きる過程で、5人がそれぞれ何を求め、何をしたのか、を見つめるドラマだ。
登場人物5人には、ひとつの共通点がある。それは、愛を渇望しているところ。愛を欲しているものもいれば、愛を与えたいと思うものもいる。全員が共通して、”愛”を追い求め、関係性を紡いでいる。
そしてタイトル通り、そこにはいつも、そんな人間たちを見つめる動物がいる。今回の邦題は『動物だけが知っている』となっているが、英題は原作の小説と同じく『Only the Animals』=(動物だけ)となっている。原作の著者は、別の本の1ページからインスピレーションを得てタイトルをつけたと言っている。そこには2つの情景が描かれていて、ひとつは長期のバケーションで家を留守にする家族が、ペットに飼っている犬の世話をできないと捨ててしまう図。もうひとつは、森に捨てられた犬が、家族はどこにいってしまったのかと逆に彼らの安否を心配しているという図。これを見て、動物だけが本当の忠誠心を持っていて、人道的であると感じたそうだ。

物語の中盤でとても印象的なセリフがある。
「”愛”は、あるものではなく、ないものを与えることだ。あるものを与えるのは”快楽”だ。」
彼らの行為は愛なのだろうか、と考えながら観るのも面白い。

会期中の上映は残りあと1回。11/5 14:30〜

【作品情報】
動物だけが知っている
(英題:Only the Animals、原題:Seules Les Bêtes)
117分/カラー/2019年/フランス

監督:ドミニク・モル
キャスト:ドゥニ・メノーシェ、ロール・カラミー、ダミアン・ボナール
HP:https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32CMP11

荒木 彩可
九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。