昨年より世界様々な映画祭で上映され話題を呼んでいる映画「僕はイエス様が嫌い」。監督は1996年生まれの奥山大史。これまでも釜山国際映画祭に出品された短編映画「Tokyo 2001/10/21 22:32~22:41」(主演・大竹しのぶ)の監督や「過ぎて行け、延滞10代」(監督:松本花奈)、「最期の星」(監督:小川紗良)でカメラマンを務めてきたが、「僕はイエス様が嫌い」でも監督・撮影・脚本・編集の役を担っている。サンセバスチャン国際映画祭での最優秀新人監督賞、マカオ国際映画祭スペシャル・メンション賞のほか撮影部門でもストックホルム国際映画祭、ダブリン国際映画祭で最優秀撮影賞を受賞しているが、俳優達の動かし方や、それに即したカメラポジションとサイズ、映像の連なりを見ていると極めて注意深く映画が設計されていることが分かる。そうした構成上の厳密さと、画面に映る子供達の素直な様子や心理的な持続の共存に非常に高いクオリティの演出力を感じずにはいられない。映画全体がそれほど多くはないショット数(画角比4:3、そのほとんどが固定カメラ)で構成されながら、複数の登場人物達がそれぞれの時間を生き、少ない台詞の中で人物の動きによって物語が語られ、それでいて彼らの機微が細かく伝わる様は、映像言語として特別な強度を持っていると言って良い。

 

 

 

物語は監督自身の体験をベースに作られているとの事だが簡単に紹介すると、東京から雪深い田舎のミッション系小学校に転校してきた主人公ユラ(佐藤結良)が礼拝などのキリスト教行事に戸惑いながら、突如として現れユラの願いを叶え始める小さなイエス様と、新しい学校で生まれるクラスメイトの和馬(大熊理樹)たちとの友情関係を中心に描いている。登場するイエス様も崇高というよりも、遊び心を持った無邪気な子供のような存在として描かれているのが面白い。映画は雪深い白銀の世界が舞台となっているが、そうした雰囲気の良さに頼りすぎること無く、大切に友情を育んでいくユラたちの様子を比較的広角レンズの深い被写界深度で少し離れた所から見守っている。中盤以降ユラがどうしても叶えたくなる願いに関して、イエス様がどう答えてくれるのかが一つの焦点となっていくが、其処でもいわゆるクローズアップショットで登場人物の心情を説明したり美しい風景や雰囲気に逃げることなく、登場人物達の様子/様態を見守り続け、しかしそれ故に取り残されてしまった人物達の痛みが画面からより伝わってくるかのようである。

また物語としてはイエス様との関係や、新たな土地で生まれた友情・人間関係と、ユラが最終的にたどり着く結論めいた行為を見ていると関係性の構築を巡る映画でもあると言えると思う。少し話は逸れるが、カメラ=撮影行為に関して記しておくと、カメラという機械装置がその根本として立ち上げているのは、脳という認識器官を持たないが故に人を物として、物が意味から解放されたモノとして存在出来る唯物の世界であり、一時的に意味的捕獲から自由になった唯物達の闊達の場、又は新たな固有の物語が立ち上がる場とも言える。それゆえ撮影行為は、世界との関係性を作家独自に結び直す作業でもあると言える。

 そして「僕はイエス様が嫌い」が映画を通して見せてくれるのは、主人公ユラの極めて独特な世界との関係の構築過程であり、素晴らしいのはそれが演出・撮影技術的選択においてユニークな形で達成されている点である。公開前に詳しくは述べれないが、それはキリスト教含めた神、彼岸からの視点のようでもあり、記録することで逆説的に傷を生きようとする過去への手紙のようにも思える。そして観客もまた白銀の世界に漂うように存在する登場人物達の様子や、雪に残される足跡とその痕跡、または彼らを取り巻く無慈悲なモノ達の世界に迷うユラの時間を痛みを持って追体験することになる。それはどこか甘美な手触りを湛えながら、郷愁に陥りすぎることなく、あくまで現在形の出来事として生きようとする者の世界である。そしてその画面にはっきりと新たな映画作家の出生刻印が押されていることを感じることが出来るだろう。新たな世界との関係の発見に立ち会うために劇場に駆けつけるのをお勧めしたい。

 

 

「僕はイエス様が嫌い」5月31日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開

監督・撮影・脚本・編集:奥山大史

出演:佐藤結良、大熊理樹、チャド・マレーン、佐伯日菜子ほか 

制作:閉会宣言

宣伝:プレイタイム

配給:ショウゲート

公式ウェブサイト:https://jesus-movie.com/

予告編:https://www.youtube.com/watch?v=c2DdsGkOdlg

 

<p>戸田義久 

普段は撮影の仕事をしています。

https://vimeo.com/todacinema

新作は山戸結希監督 「21世紀の女の子ー離ればなれの花々へ」、吉田照幸監督「マリオ AIのゆくえ」、ヤング・ポール監督 「ゴースト・マスター」、越川道夫監督「夕陽のあと」等。CM/ユニクロ/ 映画「かぞくのくに」「私のハワイの歩きかた」「玉城ティナは夢想する」/ ドラマ「弟の夫」「山田孝之のカンヌ映画祭」「東京女子図鑑」等