東京国際映画祭5日目。アジアの未来部門から『夏の夜の騎士』を紹介する。

おばあちゃんの自転車が盗まれた!
小学生のティエンティエンにとっては大事件。仕方がない、また買うか、と諦め顔の祖父母に納得できない彼は従兄を引き連れ犯人探しを企てる。
自転車泥棒という出来事から想像できるように、ヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』を思わせるシーンもたくさん出てくるのだが、この作品では子どもたちが直面する(おそらく初めての)世の中の不条理、という視点で描かれている。
大人たちは不条理を受け入れ、忘れてしまおうとすることに慣れている。しかし子どもたちはそれを知らない。良い行いをしろ、人を傷つけるな、自己犠牲を払った兵士たちがいるからこの国がある…学校で習うのはそんなことばかりで、人のものを盗むなんて決して許されないことだ。そんな子どもたちが不条理にどう対処していくか、というのが美しい成長ストーリーとして展開する。

作品全体を通して、自転車をはじめとする”モノ”が印象に残る。意地を張って食べきれなかった餃子、従兄弟同士で分け合う朝食の豆乳の膜、受け取られずに行き場を失った贈答品…登場人物同士の関係性を象徴するものとしてモノが介在する。これは、祖父がティエンティエンに「昔は泥棒なんていなかった。なぜなら、盗むものがなかったからだ。」と言うセリフにもつながってくる。物語の舞台である1997年の中国は発展期にあり、物質主義に傾倒していく真っ最中だ。ティエンティエンの母親が日本に出稼ぎに行っており、祖父母に預けられているという設定も、仕事のために子どもを手放す親という監督が描きたかった社会課題でもある。

弱冠30歳のヨウ・シン監督は、本作が長編デビュー。
それぞれのキャラクターにはっきりとした役割が見え、印象に残るカットも多い本作品。今後の活躍にも注目したい。

本作の会期中の上映は11/3(日)21:25〜と11/4(月)17:05〜の2回。11/3はまだ残席あるようです!

【作品情報】
夏の夜の騎士 (英題:Summer Knight、原題:夏夜騎士)
99分/カラー/2018年/中国

監督:ヨウ・シン [尤行] キャスト:ホァン・ルー、リン・ルーディー、ジー・リンチェン
HP:https://2019.tiff-jp.net/ja/lineup/film/32ASF07

荒木 彩可
九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。