1月30日からアテネ・フランセ文化センターで開催中の、東京国際映画祭 CROSSCUT ASIA 提携企画 ラララ♫東南アジア[クラシックス]より、『少女ルーペ』を鑑賞したレビュー記事です。本日2月1日15:50より同作品の二回目の上映があります!

フィリピン映画の巨匠、リノ・ブロッカ監督(1939~1991)の1987年の作品。フィリピン音楽界の大スター、シャロン・クネタ(1966~)が、スラムに暮らす貧しい少女ルーペを熱演している。シャロン・クネタはマニラ北部のパサイ市の市長の娘で、12歳の時にレコードデビューを果たし、1981年、15歳で映画の初主演をつとめた。この『少女ルーペ』出演時は22歳。くりくりした大きな目が魅力的な彼女は市長の娘ということで、たぶん割とお嬢様だと思うのだが、この作品ではゴミの山の上でおばちゃんと取っ組み合いの喧嘩をしたり、足の不自由な母親をおんぶして物乞いをしたり、母親の愛人のダメ男につかみかかったりと、かなり体を張っている。

ルーペは貧しい生活から抜け出したい一心で、愛よりも金を信じ、救いを求めるようになる。そして幼なじみのすすめで出場した歌謡コンテストで見事優勝、賞金を手にし、歌に生きる道を見出していくのだ。街のレストランのステージで歌う仕事についたルーペの前に、ベテラン歌手のロフィが立ちはだかる。ステージ上で二人が歌合戦を繰り広げるシーンは圧巻だ。ルーペが歌姫として覚醒する瞬間である。美しいドレスに身を包み、スポットライトを浴びて歌い踊る彼女は、ゴミ山の少女とはまるで別人のようだ。

しかし、単純なシンデレラストーリーとして片づけることができないところがこの作品の魅力なのではないだろうか。ルーペは歌手になっても相変わらず散々な目に遭いつづけるし、彼女はチャーミングな王子様の愛などはなから信じていないのだ。原題はPasan Ko ang Daigdig / I carry the world on my shoulders。彼女の肩に全ての重さがかかっている。彼女の周りの人々はみんな基本的に身勝手で、それぞれがルーペに何かを負わせている。母親も、その愛人も、幼なじみの青年も・・・。果たしてルーペに本当の自由と幸せは訪れるのだろうか。彼女を幸せにするのは、やはり愛ではなく金なのか。

 

個人的に好きだったのが、やはり怒涛の80年代ポップス歌合戦、ルーペが母親の愛人を鞭で打ちまくるシーン、そして中盤である悲惨な事件がルーペの身に起こるのだが、その犯人がなかなか明かされないというサスペンス要素が入ってくるところ。そして、物語自体は割と暗いのに、シリアスな中に独特のコミカルさが漂っているのがおもしろかった。歌ありロマンス(?)ありサスペンスありで、絶対に飽きさせないエンターテイメント性をもった作品。

本日15:50よりアテネ・フランセ文化センターで上映されるので、ぜひ足を運んでみてください!

http://www.athenee.net/culturalcenter/program/to/lalala_tounanasia.html

主催 国際交流基金アジアセンター、アテネ・フランセ文化センター

 

澤島さくら

京都の田舎で生まれ育ち、東京外大でヒンディー語や政治などを学んでいます。なぜヒンディー語にしたのか、日々自分に問い続けています。あらゆる猫と、スパイスの効いたチャイ、旅行、Youtubeなどが好きです。他にもいろいろ好きなものあります。