昨年、日本で異例のロングランヒットとなった『バーフバリ』に続き、すごいインド映画がやって来た。『世界はリズムで満ちている』は、南インドの伝統的打楽器「ムリガンダム」の奏者を目指す若者の成長物語だ。歌あり、踊りあり、恋あり、ステロタイプな敵役の妨害ありとインド映画の基本は押さえつつ、今も残るカースト制度や古い慣習にとらわれてもがく若者の姿から、インドの社会が抱える問題とその現状が見えてくる。

 

主人公のピーターは、インド映画のスーパースター、ヴィジャイの大ファンである大学生。ドラムを叩くのは好きだが、ムリガンダム職人である父の仕事にも伝統的な音楽にも一切興味がない。ところがある日、偶然ムリダンガムの名手ヴェンブ・アイヤルの演奏を間近で耳にし、ムリダンガムにすっかり心を奪われてしまう。紆余曲折の末アイヤルに弟子入りを果たしたものの、一番弟子のマニに疎まれ、そのことが原因で予期せぬ事態に巻き込まれていく。

 

打楽器の師弟関係を描いた作品といえば、アカデミー賞を受賞したデミアン・チャゼル監督の『セッション』が浮かぶが、ラージーヴ・メーナン監督によると、インドの師弟関係は特別なものだという。師との間には、時に親よりも強い結びつきが生じ、弟子の才能が師匠を上回るようなことがあっても、弟子にとって師はいつまでも師、敬うべき存在であり続ける。

 

物語が進むなかで、ピーター自身も知らなかったある秘密が明らかになる。それは「音楽は誰のものか」という問いにつながり、インド映画に欠かせない音楽について、思いもよらない背景を教えてくれる。

 

ピーターを演じるG・V・プラカーシュ・クマールは、90年代からインド映画音楽をけん引し、本作でも音楽を担当したA・R・ラフマーンの甥っ子だ。ムリガンダムを奏でる見事な手技は1カ月の猛特訓の賜物だという。ビートのきいたラフマーンの音楽とともに画面を彩るダイナミックなダンスは、スクリーンで体感するべき興奮。編集の関係などから、東京国際映画祭での上映は本国インドに先駆けて世界初公開、ワールド・プレミアになった。本日、最後の上映も満席完売で、日本での一般公開の報が待たれる。

 

◆作品情報

監督:ラージーヴ・メーナン

キャスト:G・V・プラカーシュ・クマール、ネドゥムディ・ヴェーヌ、アパルナー・バーラムラリ

131分/タミル語/英語・日本語字幕/2018年/インド

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。