冒頭、静かな晴れの日、屋根伝いを歩くひとりの女性が突如として現れる。意味不明な言葉を叫んでいるが、どうやら恋人と別れたらしい。いつ飛び降りてもおかしくない。女に踏みとどまるよう諭す周囲に混じって、一人の青年、彼の見つめる先には、騒ぎを聞いてベランダに現れたジュリア。彼はいつもベランダを見上げていたに違いない。

 いよいよ女が屋根の淵まで迫った時、ひとりジュリアは涙する。憐れみと蔑みを宿した目に力はない。女はジュリアを見て屋根の上へ上へすたこらせっせと戻った。

 主題として女性の「ヒステリー」を取り上げようとベロッキオが勘案し、劇的な臨界点を冒頭に持ってきたのではないかと思われる。原作の小説を読んでいたこともあり、見るにあたり、やや高を括っていたが、オリジナルから残されたのは「婚約者と離れた女と若き青年が情欲に溺れる」という部分で、その改変により精神−身体の関係性が強調されている。

 主人公ジュリアを演じるのはマルーシュカ・デートルメスで、彼女はゴダール、ドワイヨンを虜にした女性だが、今回はフェラチオまで演って見せた。

 日本公開版ではモザイク加工されており、思わずヒステリックな怒声をあげてしまった。(なんにでもモザイクかけるだけのジャパニーズ文化ふざけんなっ!)

 すったもんだあり、青年はジュリアを得た。

 眠りながら、満足げに青年が微笑む。

 「何笑ってんのよ」と、ジュリアは青年の股間にハサミをあてがう。

 このシーンで思い出さずにはいられなかったのが、日仏合作で1976年に撮られた『愛のコリーダ』だ。

 「きっつぁん…」と、今にも聞こえてきそうなので、家の刃物を買い換えようか、見た後に本気で考えた。

 

 人口増加に悩ましい都会で嫌が応にも人と接触する機会が増えます(こうして記事をかくことになった出会いは良い面ではあるのですが)放っておけば身体性から遠のくのが現代人です。この映画から滴る痛ましいエロスをスクリーンからあなたに焼印される機会にぜひご来場ください。

ベロッキオのレアな傑作2本が池袋新文芸坐で上映されます! 新文芸坐シネマテークVol.8 イタリアの怒れる巨匠/マルコ・ベロッキオ 3/18(金)『母の微笑』+講義(大寺眞輔)19:15開映 3/25(金)『エンリコ4世』+講義(大寺眞輔)19:15開映

第8回 新文芸坐シネマテーク

(本文)

伊藤ゆうと イベント部門担当。小さなラジオ局で働く平成5年生まれ。趣味はバスケ、自転車。(残念ながら閉館した)”藤沢オデヲン座”で「恋愛小説家」を見たのを契機に以後は貪るように映画を観る。脚本と執筆の勉強中。