現在横浜の黄金町、ジャック&ベティで上映中のジョン・フォード監督の大出世作にして、サイレント期の傑作『アイアン・ホース』!そこでサイレント映画ピアニストとして活躍中の柳下美恵(やなした みえ)さんにお話しを聞かせて頂きました。世界的に活躍しながら、多くの名画を上映する活動もしている柳下さんならではの貴重なお話です!とても素敵でパワフルな柳下さんの話を聞いていると、いつの時代の映画も今観るのが一番面白いと思えてきます。柳下さんが音楽的なアプローチをしながら考えるサイレント映画と観客との関係。そして演奏の方法や、現代のサイレント映画事情など、最後までゆっくりお楽しみください!

―「THE CINEMA & PIANO」と柳下美恵さん。-

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2015年の5月からジャック&ベティで「美恵’sサイレント映画」という名前で企画が始まったそうですが、その経緯を聞かせて頂けますか?(「THE PIANO&CINEMA」という名前は今回から)

柳下美恵(以下、柳下):(支配人の)梶原さんから何かやりませんかと言われて、以前から劇場で土日限定のイベントではなく普通の上映と同じようにサイレント映画を上映できたらと思っていたので、思い切って「一週間上映できないかな?」と相談してみたら「やってみましょう」ということで始めさせて頂きました。

サイレント映画の一週間興行は本当に珍しいと思います。

柳下:「映画館にピアノを!」(※1)というプロジェクトもやっているですが、120年を越える映画の歴史の中で、どの時代の映画も映画館でかけられるのが理想的だと思っていて、そういう映画館が増えるといいなと思っています。サイレント映画っていうとみんな古いって言うけど、やっぱり映画の歴史ってたかが120年越えたばかりで、過去の40年代、60年代の映画があるのに、今の映画以外は興味ないっていう人も多いので、いつの時代の映画でも同じ映画なんだよということがみんなの共通認識であるといいなと思っています。

(※1、柳下美恵さんは、2006年にプロジェクト「映画館にピアノを!」を立ち上げ、以来、上映環境の改善に向けてピアノの常設に尽力。リンク先は映画保存協会 http://filmpres.org/preservation/piano/

最近柳下さんの演奏するどんどん機会が増えてる印象があるんですが。

柳下:私ですか?減っています(笑)。映画館で弾く機会は増えたけど、研究会や大学でレアなサイレント映画を弾く機会は減ってしまって残念なんです。

いまやっているシリーズ企画はどのくらいあるんでしょうか?

柳下:そうですね。今やってるのはこのジャック&ベティの「THE PIANO&CINEMA」と、「ピアノdeシネマ」(※2)というUPLINKでやっている上映会と、「聖なる夜の上映会」(※3)という私単独の企画の三本ですかね。他の二本は劇場さんと共催でやっています。

(※2、UPLINKで毎年行われているイベント。サイレント映画を第三金曜日の20時からピアノ伴奏付きで上映。フィルム上映やゲストトークもあります。
  ※3、クリスマスシーズン恒例、サイレント映画のピアノ伴奏付き上映会。10回目の今年はクールでオシャレな喜劇役者バスター・キートンの『恋愛三代記 Three ages』2016年12月2日 18:30 – 20:00@本郷中央教会)

聖なる夜の上映会 vol.10

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―「映画が楽譜」サイレント映画のいま―

 

昔のサイレント作品を上映するというのは、「マクベス」「ハムレット」を今上演するような古典演劇みたいなことだなと思いました。楽譜がない作品も多いと聞きますし、過去の作品を甦らせているようなところがあると思うのですが。

柳下:甦らせている感じではないですが…どうやって弾くんですか、楽譜あるんですか?とよく聞かれますが、どうやって答えていいかわからなくて。獨協大学の谷口亜沙子先生がよく上映会にいらしてくださっていて、大学の講義に呼んでいただいたとき「柳下さんって映画が楽譜ですよね」と言われて。「そうだ」と思って、最近その言葉を使わせて頂いています。映画が楽譜なんです。即興だからジャズと同じですよねってよく言われるんですが、ジャズとは全く違っていて、楽譜があって、映画そのものを楽譜としてそれをなぞっている感じなんです。だから音楽的表現というよりは映画の流れみたいなものをちょっと強く皆さんに印象付ける感じです。真ん中の線をたどると脇も見えてくるので、谷口先生は「柳下さんの伴奏は目が良く見えるようになる」とおっしゃってくれたんです。そういうふうにやっているので音楽的表現というよりは音をつけているという感じです。

いわゆるサイレント映画の動きに音を合わせてコミカルに演出するような音楽とは違っていて、映画全体のエモーションをつなげていっているような感じがして、それがすごいと思いました。こういうことはサイレント映画の音楽にとって普通のことなんでしょうか?

柳下:ありがとうございます。色んなタイプの方がいらっしゃるんですが、私が一番影響を受けた方はイギリスのニール・ブランド(Neil Brand)さんという方でケン・ローチ監督の『麦の穂を揺らす風』でもサイレント映画時代のピアニストとして演奏シーンがあります。彼の場合はちょっと大げさなところもあるんですが、すごくエモーショナルで「あ、きたぞ」という感じや「ここは盛り上がるぞ」というところがあって、音楽と一緒にみんなの気持ちが高まっていくと、観たときの満足感がすごいので、そういうところが好きで影響されていますね。ただ彼の場合はちゃんと音楽的なフレーズを作るんですが、私はそれを無視しちゃって、普通だったらシーンの終わりに終止して次に行くんだけど、私は次のシーンが来たら終止せずに次に行ってしまうので、音楽的にあり得ないことをやってしまっています。ただ、それが音楽をすごく聞いてしまう人には気になるんだけど、映画を観ている人にとっては意外と気にならないようで、最後にお辞儀したときに「あ、音楽ついてましたね」と言われることが多いので、まぁそういう感じの弾き方なんでしょうかね。

楽譜がなく自由に弾くわけなんですが、昔サイレント映画が上映されていた頃は楽譜があったけど、今は残っていないということなんでしょうか?

柳下:残っているものもあるんですが、昔もほとんどは映画館に任されていたようです。大きなプロジェクトじゃないと、どんどん新しい映画がやってくるので、それに合わせて楽譜を書くことが難しかったようです。今だったら映像を何度も見ることができますが、その頃はフィルムなので、一、二回観て、映画館の人がどういうふうにするかということだったようです。あとは、その頃参考書みたいなものが出ています。今回の『アイアン・ホース』には主題歌(『アイアン・ホース』のマーチ)があって、アメリカの議会図書館でコピーさせてもらったんですが、この曲を書いているエルノ・ラペー(Ernö Rapée or Erno Rapee)という人が編纂した「ピアニストとオルガニストのためのモーション・ピクチャー・モーズ」(Motion Picture Moods for Pianists and Organists 1924)という本があります。それが例えばラヴシーンで、ブラームスのワルツを使うというような楽譜が500ページくらい載っているんです。最初は「A」エアロプレイン(Aéroplane)から始まって最期のウエスタン(Western)までABC順になっていて、そういうこともしていたみたいです。私も最初の頃にそれをやってみたんですが、作曲家が色々なので、時間もかかるしテイストもバラバラになってしまうので、なかなか難しくって、曲と曲の間を少しずつ作るようになって、最近は即興になってきました。

すべて既成曲を編集しながら使うということだったんですね。

柳下:そうです。既成曲を選曲しながら使う人もいたんですけど、参考書なので全部使っていたかも分からないんです。もしかしたらどんな映画でも同じような曲を使っていた人もいたかもしれません。映画に合っているからどうかも考えず「このくらいでいいかな」という人も。これは映画に対する愛情があるかどうかだと思うんですが、わたしは映画が相当好きなので、映画の一部になって弾いています。

 

―サイレント映画と柳下美恵さんのステキな関係―

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『アイアン・ホース』は前から何度か演奏していて、DVDにも収録されていますが、やはり何度も弾いていると新たな発見や変化はありますか?

柳下:ありますよ。何回観ても発見ありますよ。不思議ですね、映画って。細かいところがどんどん見えてきて、最初は筋を追うだけでやっとなんだけど、こんなところで、こんな表情している人がいたんだ、というところまで見えてきます。特に『アイアン・ホース』は群像劇なので、色んなシーンで様々な人たちが出てくるので、何回弾いても発見があります。元の印象は変わらないですけど、解釈は多少変わってくるところはあるかもしれません。ただ私の演奏を180度変えてしまうことはありません。ちょっと変えたとしても言葉だとニュアンスが変わってしまうところがありますが、音楽は曖昧なところが多いのでそこまでの変わりようはないのかもしれないです。

以前上映で終わったあとに「今日はあんまり上手くいかなかった」というようなことを言っていたことがあったんですが、どこをどう上手くいったときと上手くいかなかったときの違いがあるんでしょうか?

柳下:そうですね。やっぱり集中度というのがあったり、疲れもあるので、こういうふうに弾こうと思っていても手が言う事を聞いてくれなかったりします。観客として観ているときよりも、集中して読み取りながら弾いているので、集中が切れてしまうと、もっと入りこめたのに、というような感じがあるんだと思います。あと最近は一人で弾いているんですが、最初の頃はよく弁士さんと一緒にやっていまして。弁士さんって日本特有の文化なんですが、言葉としてのリズムと言葉の調子っていうのがあって、それが段々身についてきました。女の人が台詞をしゃべっているシーンでは高い音域で弾くとか、怒っているときは力強く弾くとか、そういうこともやっているんですね。でもそれが上手くいかずに弾いてしまったとか、自分の中のことなので些細なことなんですが、やっぱり完璧を目指したいじゃないですか。それができなかったことが多かったときには、上手くいかなかったとか言ってしまいます。

サイレント映画をたくさん観て即興で弾いていると、「次はこうなるな」とわかるものなんですか?

柳下:監督によって全然違いますからね。でも映画をたくさん観ていると分かるものなんじゃないですか?流れってありますよね。でもそれは映画監督に聞いて欲しいな(笑)。それこそ篠崎さんとか、シネフィルの監督に。ただ、画だけで見せているのでサイレント映画を経験した監督は映画の作りがしっかりしているとは言いますね。映画は総合芸術ともいいますが、台詞や音楽に頼らず、映像だけで全て分かるように作るので、台詞や音楽が入っていることを前提にした総合芸術とは違いますよね。すべて画だけで分からせるということなので、字幕も実は画なんですよ。ヒッチコック監督は最初は字幕のデザイナーだったんです。字幕の横に草が生えているというようなデザインもありますが、例えば、字幕がどんどん大きくなって声が大きくなっていく表現をするということもあります。それで画だけで全て表現するので、誰でもわかりやすいように、予想しやすい構造にはなっているかもしれませんね。リリアン・ギッシュは映画がトーキーになったとき、世界言語でなくなってしまったと言っています。サイレント映画は映像である程度わかるので、言葉に頼るようになると言語を翻訳しないとわからなくなってしまったということだと思います。

すごくよくできた映画だったりすると、弾いているときに一体感のようなものを感じることもありますか?

柳下:素晴らしいなと感動しながら弾いたりしますよ。よく作ってあるなぁって。特にジョン・フォード監督って本当に職人だと思います。すごく、これこれ!って思わせてくれるんですよね。でも映画観ているときにみなさんにもありますよね?あぁ、これっていいなあとか。今の映画は、病んだ部分とか身のまわりの問題提起をすることが多いですが、『アイアン・ホース』は娯楽大作です。日本で娯楽大作というとTVドラマを映画にしたものが多いですが、それとはスケールが違ってすごいなぁと思います。

批評などでも扱うことはできますが、映画をつくるひとなどにとっても、サイレント映画にアプローチできることって少ないと思います。その点で、柳下さんのようにサイレント映画に関われるのは羨ましいと思うところがあります。

柳下:そうそう、わたしずるいところにいるんですよ(笑)だから、観客でもなく役者でもなく、その真ん中にいて。なんか一番前の方に入り込んで、おいしいところにいるっていう(笑)だから申し訳ないと思っています。今の監督とかでも、もしかしたら私にジェラシーとかを感じている人とかもいるかもしれないです。「こんな大作に易々と音楽つけやがって」みたいな(笑)「俺がこんなに信奉しているジョン・フォードに!」みたいな関係者はいるかもしれませんね。「おまえのようなものが、立ち入るな!」っていう。

サイレント映画の優れた作品を観客と共有するその瞬間に最前線で立ち会えるのはやはりすごいことだと思います。

柳下:ただ、だから私も前に出ないように気をつけているつもりです。あくまでも監督や映画が一番上にあるので、だから「演奏」とは言いたくないので「伴奏」と言っているんです。映画が引き立つように黒子でいたいと思っています。ただサイレント映画に慣れていないお客様もいるので、上映前にサイレント映画とは?や見るときのちょっとしたアドバイスをしています。

 

―サイレント映画の上映スタイル―

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今も世界中でサイレント映画が上映されていると思うんですが、生演奏というのはどちらかというとスタンダードなことなんでしょうか?

柳下:そうですね。でもフランスのシネマテーク・フランセーズは無音上映をすることがありますね。この前ミュンヘンで弾いたんですが、ミュンヘンの映画博物館にも無音で見たいという原理主義のシネフィルがいると伺いました。日本でも影響力のある蓮實重彦さんが『サイレント映画を無音で見る贅沢』とおっしゃっていたので、無音がいいんだという風潮になった時期もありました。海外の映画祭では私の知っている限り、当時のように音楽と一緒に上映しています。

演奏者の色がついてしまうことを嫌がる人がいるということですか?

柳下:そうだと思いますね。自分の想像で観たいという人がいるんだと思います。それはオリジナルだと言えない不純な部分があるという人もいるようで。翻訳字幕がオリジナルの映像を汚すので嫌という方がいたと伺ったことがあります。ただ、音楽でも映画とは別の自分の音楽を演奏する方は、映画とかけ離れた雑音になるのでいらないのですが、乗せて行ってくれる音楽だったらウェルカムで、すごく集中できます。やはり無音上映だと、人のいびきやちょっとした音がすごい気になって集中できないです。

上映も一種のライブみたいなもので、映画館の場合だと周りの観客によって上映が変わるということもありますよね。

柳下:トーキーの映画でも誰と一緒に観るかによって変わると思います。篠崎誠監督と前に「映画って一期一会ですよね」ということ話したことがあります。映画館で他の観客と一緒に観るということはそういうことですよね。観客の質が良ければ自分もあがるし、一人神経質な人がいて「うるさい」なんて言ってしまうと、その回がしょぼんとしてしまうことがあるじゃないですか。サイレント映画でライブ感を一番感じたのは親子上映会ですね。文字が読めない小さいこどもが、コメディで文字が読める大人より早く笑って会場が沸きます。ここはこどもたちが笑うなというところは音を抜きます。こどもたちの笑い声が音楽になるんです。

UPLINKで観たときに、手元を見る為にライトアップもされていましたが、柳下さんがその空間に入る事で観客には他の映画体験とは全然違って、音と一緒に柳下さんの感情も共有できる気がします。

柳下:UPLINKは小さめで、振り返って弾かないといけないので、手元明かりだと心許なくって上からの明かりでやっています。考え方としてはやっぱり黒子に徹したいので、本当は一番後ろで弾きたいってよく言うんですよ。ベニスから北へ一時間程行ったポルデノーネでもう35年も続いている老舗の無声映画祭があるんです。1993年にはじめて映画祭に行ったときは、よくある公民館が会場になっていて、舞台の上にピアノがあって上映していたのですが、2009年に再び訪れると、オペラハウスに変わっていて伴奏者はオーケストラボックスで弾いていて観客から直接見えない位置に変わっていたんです。朝9時くらいから夜6時くらいまではオーケストラボックスで弾いていて、夜のイベントになると舞台上で演奏するスタイルなんです。生ライブなんだけど、立ち位置としては下に入って、私には目がいかないのが一番良くて、だから久しぶりにそこに行った時に、やっぱりこうなんだなって自分の中では腑に落ちました。本当はそういう風にしたい。

 

―映画館に映写機とピアノを!―

 

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若い世代ではサイレント映画も見ていない人が多いし、最近は体感できてプレミアムな気持ちになるものに集客があったりすると思うんですが、舞台と同じように、その時しか聞けないもの、感じられない空気があって、その場にその人がいるというだけで違うものがあって良いと感じました。演奏している姿も含めてイベント感のある上映もあったり、完全に黒子としてのものと両方あっていいのかもしれないですね。

柳下:そうですね。いろいろあるのは素晴らしいですね。私は後者です。だからTHE PIANO&CINEMAを続けているんです。「映画館にピアノを!」っていう運動も、フィルム映写機がなくなったところが多いですが、映写機と同様、昔はピアノも備品だったんですね。だから備品をいっぱい無くしちゃったけど、色んな映画館でそれを取り戻すみたいな感じでやってるんですよ。ピアノを普通に備品として扱って欲しくて、皆さんに伝わっているかどうかわからないけど、「ピアノ入れません?」とか「入るといいですね」とかよく言っているんです。

常に置いてあるってことですよね。

柳下:そうそう、デジタル時代になって映写機もイベント上映になっちゃったらしく、年に1,2回しか使わないとも聞きます。結局昔のものって手間がかかるんですよ。人手がかかるから人件費ごと削減されちゃうんだけど、お金じゃないものってあるじゃない。それこそライブ感、私はライブ感とは思わないけど、それがどんどん失われちゃってる感じがします。映写技師もいなくなっちゃって、ポンと押せば出来るようになっちゃったから、映画自体がロボット化するというと変だけど。世の中もそうなっていっているけど、そうじゃないものがあってもいいと思う。たった120年の歴史しか無いものだったら、まだどこでも出来るようになっていたらなぁって、そんな感じでやってるんですけどね。

実際そのピアノが置いてある映画館っていうのはどのくらいあるんですか?

柳下:今十数館はあると思います。二十館はないかな。東京だとアテネフランセ文化センター、神保町シアター、ユーロスペース、新文芸坐 あとユナイテッドシネマ豊洲にも。シネコンの入札の時にヤマハと提携してグランドピアノを入れたんです。そこでもサイレント映画を2度上映しました。映画館ではないけど上映会を良くやってるアンスティチュフランセ東京やドイツ文化センターも。埼玉は川越シネマと深谷シネマ。神戸は神戸映画資料館。元町映画館も前向きに検討してくれています。那覇の桜坂劇場にもあると伺いました。第一号は広島のシネマ尾道。縁があって劇場を立ち上げる時、今の支配人の河本清順さんと出会って、寄贈ピアノをお祝いで入れました。秋田にある御成座や新潟の高田世界館も前向きに動いてくれてるので、入ると思います。

私が働いている早稲田松竹にもフィルム映写機がまだあって、DLPプロジェクターでDCPとブルーレイ上映も出来るようになっているんですけど、それぞれ違うので、結局すべて揃っていないと出来ないものがたくさんあるので、機会がなくなるっていうのが良くないなと思います。

柳下:そうだ、早稲田松竹にも入れて!ただ、映写機があるって言っても、サイレント映画の時の映写機じゃないんですよ。速度とあと画角が違うんです。だから、今、映画保存協会の代表の石原香絵さんと「映画館に映写機とピアノを!」というプロジェクトにして、トーキーの映写機を改造してサイレント映画もかけられる映写機を入れたいと話しています。

すごいパワフルな運動ですね。すごいですよね、それって。

柳下:ちょっとフリッカーでちゃうかもしれないんですが、映写ベルトを変えるとスピードが変えられるらしく、横浜シネマリンのオープニングのときはそれでやったんです。これからは助成金も申請して続けていけたらと思っています。ぜひお力添えを。IndieTokyoでやっている新文芸坐シネマテークに何回か行ったんだけど、あれは全部旧作ですよね?いつも満員になる熱気って言うのがすばらしくて、それに価値を見いだしている若い人たちが映画界に新しい風っていうか、今の保守的なところをぶち破って、色んな良いものにしていく。そんな未来の映画界を夢見ています。ぜひ、ぜひお願いします。

 

横浜シネマ・ジャック&ベティにて 2016/11/12
(聞き手:上田・住本)

◆柳下美恵 Mie Yanashita サイレント映画ピアニストyanashita
武蔵野音楽大学ピアノ専攻卒業。1995年朝日新聞社主催の映画生誕100年記念『光の誕生 リュミエール!』でデビュー以来、国内海外で活躍。欧米スタイルのサイレント映画伴奏者は日本初。洋画・邦画を問わず全ジャンルの伴奏をこなす。2006年度日本映画ペンクラブ奨励賞受賞。DVD『裁かるゝジャンヌ』『魔女』(㈱紀伊國屋書店)、『日曜日の人々』『アイアンホース 完全版』『血涙の志士』『見世物』(㈱ブロードウェイ)、Blu-ray『裁かるゝジャンヌ』(英Eureka)で音楽を担当。

 

 

 

上田真之 イベント・上映部。早稲田松竹番組担当、ニコニコフィルム。『祖谷物語~おくのひと~』脚本・制作。短編『携帯電話はつながらない』監督。2015年春から、『恋愛のディスクール・断章』ワークショップ開催。

住本尚子 イベント部門担当。 広島出身、多摩美術大学版画科卒業、映画館スタッフとして勤務、映画と美術の懐の深さで生きています。映像製作初心者で、もがきながらも産み出す予定!

(イラスト:小池ふみさん デザイン:大村雄平さん)

(イラスト:小池ふみさん デザイン:大村雄平さん)

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