「70年代から女性の権利擁護と地位向上のために闘ってきた、85才にして今なお現役の米連邦最高裁判事」

 

 まぎれもない事実である力強い言葉の並びからは、まったく想像のできない人物。それがこのドキュメンタリー『RBG最強の85歳』の主人公、ルース・ベイダー・ギンズバーグだ。黒い法衣を着てそびえ立つ男性判事のあいだにちょこんとおさまる、小柄できゃしゃの、もの静かな女性。法衣の首まわりを縁どるレースの襟が、とてもエレガント。じつはこの襟にはとても重大な意味のあることが、のちに明らかになるのだけれど。品のよいおばさま然とした彼女のどこに、そんなパワーがそなわっているというのか。

 現在、公開中の『ビリーブ 未来への大逆転』が、若きルース(フェリシティ・ジョーンズ)が、最愛の夫マーティン(アーミー・ハマー)と出会い、子をもうけ、女性であるがゆえに被る差別に立ち向かいながら、弁護士として独り立ちをしていくまでを描いた実話風の物語であるのに対し、本作『RBG最強の85才』はその後、ルースが法曹界のみにとどまらず、アメリカの「ポップアイコン」として人気を博していくさまを切り出していく。

 

 「お堅い」イメージの判事が、「ポップアイコン」だって?

 

 近年の、ブームともいうべき“RBG”(ルース・ベイダー・ギンズバーグの頭文字)人気は、若者に端を発したもの。そもそも80を超えたおばあちゃんにRBGなんて愛称をつけてしまうのだから。最高裁判事の一人として、やすやすと多数にくみすることなく、おのがジャッジにそぐわぬものへ鋭く的確な「反対意見」を述べる姿には、スカッと胸すく爽快感、そりゃあ「クーール!」でしょうとも。若者が勝手にこさえたRBG名義のSNSアカウントだって、有名なラッパーNotorious B.I.Gを文字った遊び心はそのままに、“Notorious RBG: The Life and Times of Ruth Bader Ginsburg”という書へと著されていく。マグカップを彩り、いまやRBG自身も知人に配るTシャツの柄になり、はてはケイト・マッキノンふんするRBGが『サタデー・ナイト・ライブ』で大暴れしてお茶の間をにぎわす始末。

 

 強い女性なら、いくらでもいるじゃない。なぜRBGだけが、ここまでバズったのか。

 

 インターネットミームに乗って拡散するRBGのこうした「ポップ」な痛快さの裏には、力強く着実に重ねられたRBG闘いの記録がぎっしり書き込まれている。RBGは、たしかに女性の権利を広げ、高めてきた。それは、ただ「女性のために」なんかじゃない。性差別そのものが両性にとって不幸の源と、バッサバッサ快刀乱麻を断っていく。RBGはいつだって、不当に扱われ、本来持っているはずの権利を奪われた人たちのために情熱をそそいできたんだ。誰かれの味方をするというのではなく、社会の不公正をただそうという凜とした姿勢をもって。派手な演出も、劇的な勝利の瞬間もない、静かで淡々とした法廷シーンが立ち現れては消えるたび、胸に深く染み入ってくる、この感覚は何だろう? ああ、自分はいま、人の信念というものに打たれているんだ!という興奮は、なかなかに得がたい体験。

 RBGさん、あなたはまさしく現代のスーパーヒーローだ。

    米連邦最高裁判事をめぐる政治的状況について幾ばくか知っていれば、なぜ彼女が今も現役であり続けなければならないのかの事情も透けて見え興味深いが、そんな背景は抜きにして、あなたの理不尽を吹き飛ばしてくれる快活がここにある。

 

5月10日(金)よりロードショー!

ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて

『RBG最強の85才』

監督・製作:ジュリー・コーエン、ベッツィ・ウエスト

CAST:ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビル・クリントン、バラク・オバマ

2018/アメリカ/カラー/英語/98分 原題:RBG 後援:アメリカ大使館

配給:ファインフィルムズ FINE FILMS G映倫

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。