東京国際映画祭3日目。既にティーンでなくなってから半年ほど経過してしまったが、ここでは“ほぼ”ティーンの視点でユース部門のティーンズ作品を紹介していきたい。

 

今回紹介するのは『人生、区切りの旅』。

妻を亡くしたフランクは、妻との最後の約束を守るため、刑務所から出所する息子ショーンを迎えに行く。母の願いは、父と息子で共に自分の故郷であるアイルランドまで遺灰を持っていき、湖に撒いてほしいというものだった。 しかし、出所してきた息子は父と目を合わせることもない。もちろんそんな息子と、父親目線で冷静さを装う父の会話が成り立つはずはなく、一緒の空間で過ごす、まして小さな車で共に旅するなどもってのほかだ。当然旅は始まらない。 そうはいってもこの映画はロードムービーだ。父と息子、そして母を載せ、アイルランドの雄大な自然の中を車が走り出す。

 

父であるフランクは、旅の中でも常に落ち着いた優しい大人の男性を装う。彼自身、そんな自分の性格を自負しており、対照的な息子を一段上からなだめる。一方、息子のショーンといえば、常にイライラし、衝動に任せて暴力的な言動をとる。 それでも共に時間過ごしていく中で、やはりと父と息子は向き合わざるを得ない。 旅をしていくうちに次第に露になっていくフランクの人間的な側面。そんな父の様子をショーンは冷静に見つめる。そうしていくうちに、ショーンは自身の憎しみや悲しみを乗り越えて他人を思う強さを得ていく。道中父を励ます子の姿はまるで父親だ。

 

短い旅の道中で次から次へと起こる出来事や道中で出会う人々、その時その時でそれぞれの旅の意図も変わっていくようにも見える。しかしこの旅を最後まで導き、二人を共に旅させるのはいつも母の存在だ。 映画の中には、家族同士でもお互いに知らなかったこと、これから先も知り得ないもの、さらに観客が知り得ない、登場人物たちの深い関係性がある。それでも映画の登場人物たちと観客が共に時間を過ごせるのは、母親という存在が家族をまとめ、旅の物語を完成させてくれるからだろう。 刻々と変わっていく彼らの心境と、もうこの先変わることのない母。それは変わることのない家族の関係へと繋がっていく。

 

アダルステインズ監督はこれまで短編で腕を磨き、本作が長編デビュー作となった。息子ショーン役のローガン・ラーマンは、2012年のティーンムービー『ウォールフラワー』にも出演している。ウォールフラワー世代としても嬉しいキャスティングだ。

アイルランドの雄大な自然を舞台にそれぞれの心境を丁寧に描いた、さわやかで心温まる本作は、11/2(土)13:05、11/3(月)18:45に上映される。

 

≪作品情報≫
人生、区切りの旅
監督/プロデューサー エルヴァル・アダルステインズ
プロデューサー    デヴィッド・コリンズ
脚本 マイケル・アルムブルスター
キャスト       ジョン・ホークス/ローガン・ラーマン/サラ・ボルジャー ほか
アイスランド/アイルランド/アメリカ 2019/カラー/96分/英語

 

小野花菜 現在文学部に在籍している大学2年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。