現在、開催中のMy French Film Festival 2021。本記事では、ボリス・ロシキーヌ監督の『カミーユ』を紹介。

『カミーユ』
カミーユ・ルパージュ。2014年、中央アフリカ共和国の取材中に紛争に巻き込まれ、弱冠26歳で命を落とした実在の写真家だ。本作は、普通の伝記映画とは少しちがう。それは、偉業を成し遂げた歴史上の人物ではなく、何かを成し遂げるのに十分な時間を得ることができなかった人物の物語だからだ。しかし、本作はカミーユの生きざまを誠実に描き、彼女が何を目指していたのかを私たちに伝えてくれる。今日、彼女に出会えてよかった。そう思わせてくれる本作は、優れた伝記映画と言えるだろう。

カミーユには、信念があった。それは、お金にならないという理由で報道されない問題を見捨てないことだ。彼女は人々を単なる被写体ではなく、常に自分と同じ人間として見ていた。だからこそ、彼女は他のジャーナリストのようにホテルに泊まらず、現地の人々と寝食を共にし、交流を大切にする。しかし、作中のベテランジャーナリストが言うように、時にそれは危険なことでもあるだろう。ジャーナリストはいずれ現地を去る。本当の意味で彼らと同じ当事者にはなれないのだ。

カミーユは、イスラム系勢力のセレカに迫害されるキリスト教系の若者たちと親しくなる。カミーユと同年代の彼らは、大学で勉強したり恋愛したりする普通の若者だ。しかし彼らは、いつ何時、命を狙われるともわからない日々を送っている。滞在中にフランスの軍事介入という大きな出来事が起こり、カミーユの写真はメディアに掲載される。帰国した彼女は、家族や友人にもてはやされるが、彼女の気持ちは晴れることがない。なぜなら、紛争は終わらず、親しくなった現地の人々は今も危険な生活を続けているからだ。中央アフリカ共和国とフランスの日常の対比にはどきっとさせられる。悲惨なことが起こっているにも関わらず、自分は何と平穏な世界を生きているのだろうか。カミーユは、その事実を思い出させてくれる。

中央アフリカ共和国に戻ったカミーユは、友人を追ってキリスト教系民兵のアンチ・バラカと行動を共にする。そこで彼女が目撃したのは、対立するイスラム系勢力の残虐行為に苦しんでいた友人が、今度は暴力を振るう側になっている姿だった。人殺しは目を見ればわかるのか?カミーユは、数々の凄惨な体験してもなお、彼らの目に優しさや無垢さがあることに気がつく。映画は、カミーユが撮影した実際の写真を交えながら、そのことを丁寧に描いていく。

カミーユが写真を撮影した現場を再現し、臨場感のある映像でテンポよく展開する本作は、映画としても十分に楽しめる。デモ隊のラップやコール、楽しい時、悲しい時に人々が歌う歌。そうした音楽も彼女の体験を鮮やかに表現する。カミーユが命を賭して訴えた中央アフリカ共和国の現状、現地の人々の人間味あふれる姿。それを描くことに成功した本作は、彼女の信念をしっかりと引き継いでいると言えるだろう。

《作品情報》原題 CAMILLE/フランス/2019/カラー/90分/フランス語

【第11回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間: 1 月 15 日(金)〜 2 月 15 日(日)
料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編-無料
公式サイト:http://www.myfrenchfilmfestival.com
主催:ユニフランス

北島さつき
World News担当。イギリスで映画学の修士過程修了(表象文化論、ジャンル研究)。映画チャンネルに勤務しながら、映画・ドラマの表現と社会の関わりについて考察。世界のロケ地・スタジオ巡りが趣味。