1月16日(木)から2月16日(日)までオンラインで開催されているマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのレビュー第4弾です。

『Ma 6T va crack-er』(俺のシテがやられる)

 ジャン=フランソワ・リシェ監督による『俺のシテがやられる』(1997)は、今回のMyFFFにコンペティション外で特別招待されている。今回のレビューではこちらの映画を紹介したい。

 『俺のシテがやられる』はバイオレンスとヒップホップとエネルギーに満ちた、極めてパワフルな作品である。フランスの地方を舞台に、不良たちが倦怠感を感じながら刺激を求めて喧嘩や万引き、放火などの暴力行為に明け暮れている。
 彼らはどうやら漠然とした将来への不安や失業問題を抱えており、怒りや絶望が原動力になっているように思われる。彼らの様々な暴力が次から次へと映し出され、さらにそこにビートの効いたヒップホップ音楽が合わさることで、画面は一種のグルーヴにあり続ける。また、映画の編集自体も音楽的に構成しており、例えばラップがはっきりとした始まりと終わりがないように、あるシーンが終わって次のシーンへと切り替わる際、その終わりは明確でなく、飛躍的である。こうした音楽と暴力の密接な関係がこの映画の主軸をなしている。

 物語という要素に目を向ければ、一応、アクロという青年が主人公のようだが、登場人物が非常に多く、どこの不良集団とどこの不良集団が抗争しているかは判別しにくい。だが、明確に示されているのは彼らと警察組織との対立の存在である。むろん、不良たちは明らかな犯罪行為を行っているものの、それを取り締まる警察の行為もまた過剰で、鬱憤を晴らしているかのような暴力性を持っている。また、これらは貧困層と中産階級との断然でもあることが、不良たちの金銭的な貧しさからも示される。
 これらの対立構造を示したうえで、終盤、劇中でのライブに一同が集まるシーンでついに本格的な暴動に至る。音楽と物語上の暴力が極致に達したときに、ある種の爆発が起きるのだ。不良たちの行為は対ブルジョワ革命の様相を呈し始め、しかもそれがフランスの各地で暴動が発生したことにつながる示される(実際、マルクス主義がこの映画の基底にあるようだ)。また、ラップ音楽の反体制的な要素がそこにエッセンスを加え、映画はいよいよクライマックスへとなだれ込む。

 さて、先日のアカデミー賞では『パラサイト』や『ジョーカー』が話題になり、またケン・ローチ監督の映画が改めて注目されている。またカンヌ国際映画祭で是枝裕和監督の『万引き家族』が評価されたのも記憶に新しい。これらの映画の共通点として、各国で極めて過酷な貧困問題が可視化され始めていることは多くの人が指摘している。それを踏まえて、1997年の『俺のシテがやられる』を今、MyFFFで観られること、それには重要な意義があるだろう。

 希望的な映画とは決して言い難く、また暴力が快楽的に観られるということもない。だが、だからこそ、二十余年前のこの映画とともに再度現在の社会と対面しなければならないように思えた。

 なお、MyFFFの会期は16日までだが、フルパックでの視聴は16日までに購入すれば30日間可能。ぜひ駆け込みで、多くの作品に出会ってほしい。

この作品を含め、映画祭では8本の長編映画に加え、多数の短編映画も配信中!

【第10回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】

開催期間:2020年1月16日(金)〜2月16日(月)

料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編(60分以下)-無料

配信サイト:iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix、MUBI、青山シアター、Uplink Cloud、U-NEXT、Beauties、VideoMarket 、ビデックスJP、GYAO !、ぷれシネ、Rakuten TV(短編のみ)、ほか
*配信サイトにより、配信作品、配信期間が異なります。配信サイトは変更、追加になることがあります。

公式サイト:http://​www.myfrenchfilmfestival.com

主催:ユニフランス

川本瑠
96年生まれ。大学で演劇に没頭し、俳優活動などを行う。現在は文化の豊かさのための場を作ることを模索中。映画における身体性に興味があります。会社員として働きながら、知識を摂取する時間を日々なんとか確保するために奮闘しています。