今年もやってきました!
1月16日(金)から2月16日(月)までオンラインで開催されているマイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルのレビュー第1弾です。

『Perdrix』(ペルドリックス)


物語は暗闇の中、女性が“真実の愛”を語る言葉から始まる。
ファニー・アルダン(FANNY ARDANT)が演じる女性の美しい言葉は熱を持ち、
私たち観客の心にも語りかけてくる。続けて彼女はラジオを通じて対話をする相手に言う。
『自分の人生を心から生きているか』

主人公の警官、ペルドリックス(SWANN ARLAUD)は、仕事でも家族の中でもリーダー役を担うような、良く言えば真面目で誠実、悪く言えば何の変哲もない退屈な日常を送る中年男性だ。しかし、ある日突然台風のような女性、ジュリエット(MAUD WYLER)が彼の前に現れてから、彼とその家族は変化を余儀無くされる。

しかしこの映画は、なんとも形容のしがたい映画である。単なるラブストーリーでもないし、家族の物語でもない。物語の軸は“真実の愛”と“人生”といえるだろうが、その描き方が独創的で、まるで異世界に連れて行かれるような感覚なのだ。コメディとシリアスの間を常に行ったり来たりして、真剣なのにいつもどこか笑ってしまうように仕掛けられている。さらに突然、現実感のないシーンも登場して観客を混乱に陥れるが、いつの間にかそれが次のシーンにちゃんと繋がっているのだ。

この映画を観て、まず頭に浮かぶのは、どのようにしてこの奇妙で愛らしい物語が生まれたのか?という疑問だろう。ここからは、監督のインタビューも交えながら紐解いていきたい。

監督が脚本の最初の段階で興味を持っていたのは、警官だという。法と秩序の間で彼らがどう生きているか?人々の模範ともなるべき彼らの仕事が、彼らの生き方にどんな影響を及ぼしているのかに興味を持っていた。ジュリエットの役も、最初はペルドリックスと同じ警官だったというのには驚いた。それが段々と変化をしていき、“真実の愛”を主題にすることに決めたそうだ。ジュリエットもそれに併せてジャーナリスト、医者を経て現在の謎の多い彼女になった。

監督は、その“真実の愛”を3つの違う関係性を通して描こうと試みた。

ジュリエットとペルドリックス(恋愛)
ジュジュとマリオン(親子)
テレサと亡き夫ステファニー(亡き人への愛)

主人公は全員、強い個性を持っているが、この“真実の愛”というものを軸にして、彼らの個性がこの主題を超えることのないように映画を作っていったという。

そして、台風の目、強烈な印象を与えるモード・ワイヤー(MAUD WYLER)演じるジュリエットの存在にも言及しておきたい。映画の中の彼女は、本当に掴み所がない。いなくなったかと思えば、お腹が空いたと戻ってくるし、怒っていたかと思えば笑っているし、そしてまた次の瞬間には不機嫌になっている。彼女は大の大人だが、まるで野生動物のようだと言ってもいいかもしれない。野生動物のように気高く、何にも迎合しない。何にも縛られない彼女の生き方は最高にクールだ。一方で、いつも何かに縛られているようで、同僚にはいい人すぎると言われる良い子ちゃんのペルドリックスは、そんな彼女から目が離せない。私たち観客は、ペルドリックスの視点で彼女に振り回され、そしていつの間にか彼女に魅了されている。彼らを取り巻く美しい自然も相まって、彼女の存在は神秘的でさえある。

彼女が物語の鍵であることはいうまでもないが、モード・ワイヤーは謎の多い(謎しかない)難しい役柄を見事に演じ切っている。どのようにジュリエットは生まれたのだろうか?

モード・ワイヤーは以前の短編で監督の作品に出演したことがあった。今回はワークショップを通じ、彼女の柔軟性のある演技を見てモードに決めたようだ。彼女はまずは映画を理解し、そして実験を繰り返しながら監督と共にジュリエットを作りあげたという。

そしてもう一つ、シリアスとコメディの混合のような作風については、12歳から16歳の時に監督が英国にいたことが影響しているようだ。北フランスからイギリスに移った監督がその当時に観ていた、イギリスのTVドラマのブラックユーモアをこの映画に反映させていると語る。さらに、監督はアキ・カウリスマキ監督や北野武監督の映画から影響を受けているとも語っている。

もしも私がこの映画に謳い文句をつけるとしたら、ベタなようだが、
『自分の人生を心から生きている?』
『Is the life you are living truly yours?』になるだろうか。

なぜならペルドリックスと彼の家族は、自分たちを制限している足枷を外そうともがき、(外すしかない状況に追いやられたとも言える。)傷つき、そして最後には自分自身の人生を歩き始めるからだ。

自分の人生とは何か?人はそれぞれに悩みを抱えている。
今この文章を読んでいるあなたも、そんな問いを抱えているかもしれない。
もしくは、『自分の人生を心から生きている?』だなんて、そんな抽象的で難しいことはわからない、それに毎日忙しいし、自分の人生を生きようとしても実際問題は難しいじゃないか—と、思った人もいるかもしれない。

そのどちらの人も、安心してほしい。

この映画は、人生について見つめ直すきっかけも与えてくれるが、そんなことは全く考えなくても楽しめる映画だからだ。ただ映画を見ることに決め、主人公のペルドリックスと一緒に、ジュリエットに翻弄され、そして虜になってほしい。

最後に、監督は、映画に出てくる美しい自然にも意味を与えたと語っている。
自然を、登場人物たちの感情に合わせた背景として使ったそうである。
そんなことを気にかけながら観ると、より映画を楽しむことが出来るかもしれない。

この作品を含め、映画祭では8本の長編映画に加え、多数の短編映画も配信中!

【第10回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】

開催期間:2020年1月16日(金)〜2月16日(月)

料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)

短編(60分以下)-無料

配信サイト:iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix

、MUBI、青山シアター、Uplink Cloud、U-NEXT、Beauties、VideoMarket 、ビデックスJP、GYAO !、ぷれシネ、Rakuten TV(短編のみ)、ほか

*配信サイトにより、配信作品、配信期間が異なります。配信サイトは変更、追加になることがあります。

公式サイト:http://​www.myfrenchfilmfestival.com

主催:ユニフランス

永山桃

早稲田大学5年生。『Perdrix』を観て、個人的に感じたことは、歳を重ねた彼らの姿が心から美しいことでした。日本映画で、40代程度の俳優のラブストーリーでこんなに爽やかでフレッシュ、美しい映画なんてあるでしょうか?あったら知りたいです。若く留まろうとするのではなく、ありのままに年を取り、かつ年齢に囚われず恋に奔走する彼らは最高でした。あとは、猫が好きなのに、柴犬をかっています。ワンワン!