東京国際映画祭2日目は、イギリスにおける移民問題を扱った『バイク泥棒』、日本映画クラシックスにて上映された『丹下左膳餘話 百萬両の壺[4Kデジタル復元・最長版]』の2本を紹介する。時代も場所も、テーマも異なる2作だが、どちらの作品も、大都市で失くしたものを探しだそうと奮闘する物語であった。

 

『バイク泥棒』

主人公はロンドンで暮らすルーマニア移民の男。デリバリー業をして家族を支えているが、妻と娘、赤ん坊の3人を養う生活に余裕はない。そんな中、家族の足であり、何より彼の仕事に欠かせないバイクが盗まれてしまう。

ストーリーはまるで現代版『自転車泥棒』だが、今作はバイクが縦横無尽に駆け巡るロンドンの美しい街並みが印象的だ。移民政策がブレグジットの一因となったイギリスにおいて、移民達は厳しい暮らしを強いられている。今作の主人公もまたその一人であり、家族を築いていく中では一つの失敗も許されない。一家の運命が一台の原付バイクにかかっているという、あまりに危うい状況の中で、移民の日々の苦境を息が詰まるようなリアリズムで描かれていく。

チェンバーズ監督は、「社会の分断がいつにもまして深刻化している今日において、どんな人の裏にも物語が存在することを観客に喚起する映画が作りたかった」と語っている。安定した職を持ち、安心して住める家を持ち、自分たちの子供を育てていくという、“普通”の生活が、ふとしたことで一瞬で崩れてしまうような、そんな人々がロンドンという大都市に埋もれて暮らしている。生きて行けるかどうかは、すべて自己責任。現代に生きる移民の生活の危うさが顕在化するその街の姿は、今作が上映された東京にも重なる。

本作で脚本、監督を務めたのは、ロンドン出身のマット・チェンバース。短編『Daddy My』(2016)はコペンハーゲン映画祭で、『Settelers』(2018)はヴェネチア短編映画祭でそれぞれプレミア上映された。さらに本作の脚本は2018年のシナリオコンペBrit Listに選ばれている。

『ゴッズ・オウン・カントリー』(2017)で強い印象を残したアレック・セカレアヌ、『4ヶ月、3週と2日』(2007)以来、国際的存在として活躍するアナリア・マリンカといった現代ルーマニアを代表するキャストにも注目の本作。今後の上映は、11/2(月)21:40-、11/4(水)14:40-の2回、TOHOシネマズ六本木ヒルズで予定されている。

原題:The Bike Thief イギリス/2020/カラー/79分/英語・ルーマニア語
監督・脚本 マット・チェンバース
音楽    グラハム・ヘイスティングス
撮影監督  ナヌー・シーガル
編集    トマソ・ガローネ/ダン・ロバーツ

 

 

『丹下左膳餘話 百萬両の壺[4Kデジタル復元・最長版]』

今年の日本映画クラシックスは山中貞雄&稲垣浩特集。28歳で戦病死した天才・山中貞雄の現存する3作品と、戦後は海外でも高く評価された巨匠・稲垣浩の名作がデジタル修復され、スクリーンに蘇る。本特集初日は、山中貞雄の『丹下左膳餘話 百萬両の壺』の上映が行われた。

柳生対馬守は、こけ猿の壺に百万両を埋めた絵図面が塗り込められているという秘密を聞きつける。しかし時は既に遅く、弟の源三郎に壺を渡してしまった後だった。対馬守は慌てて源三郎に変換を迫るが、その頃壺は、今はなき七兵衛のせがれ、ちょび安の金魚入れとなっていた。七兵衛に代わってちょび安の面倒を見ることになった丹下佐膳、壺を探して丹下佐膳が用心棒をしている矢場に通いつめるようになった源三郎、そして矢場の女性達。百万両の壺をめぐって展開される人情味あふれるコメディだ。

今作は日活株式会社と独立行政法人国際交流基金が共同でデジタル修復を行っている。玩具フィルムから新たに発見されたシーンも追加され、画質だけでなく、音質もよりクリアになっている。お藤と丹下佐膳、源三郎と萩乃のコミカルな男女の掛け合いに笑い、ちょび安を見守る大人たちの情に切なくなり、丹下佐膳の身のこなしと音楽には胸がいっぱいになる。上映後には劇場が大きな拍手で沸いた。

今後の日本映画クラシックスでは、同じく山中貞雄監督作である『河内山宗俊』、遺作となってしまった『人情紙風船』、稲垣浩監督作『無法松の一生』の3本が4Kデジタル修復版で上映される予定だ。既に作品をご覧になったことのある方も、今回初めて観る方も、ぜひこの機会に劇場のスクリーンで作品の世界に浸っていただきたい。

11/2(月)13:30  『河内山宗俊 4Kデジタル修復版』
11/3(火)11:45  『人情紙風船 4Kデジタル修復版』
11/4(水)10:50  『無法松の一生 4Kデジタル修復版』

 

 

 

小野花菜 現在文学部に在籍している大学3年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。