本記事ではワールドフォーカス部門から、アメリカの家庭裁判所における審議の様子を捉えたドキュメンタリー作品『家庭裁判所 第3H法廷』を紹介する。

 

『家庭裁判所 第3H法廷』

アメリカ、フロリダ州のレオン郡の裁判所。虐待、ネグレクト、幼児遺棄などを理由に保護された子どもを、親の元に戻すか否かをめぐり、数々のケースが審議される。エスパルサ監督は2019年に300件を超える審議を記録し、重要なケースを抽出した。

 

登場する数多くの審理の断片には、最善の道を模索する人々の真摯な姿が映し出だされている。個々の事例において詳細な説明は一切なく、膨大な事例、立場の異なる多くの人々と議論が、次々と登場する。一つ一つのケースごとに複雑な背景があることはある程度推察できるものの、このドキュメンタリーからはむしろ、立場の異なる彼らに共通している、ある一つの方向性を見て取ることができる。親・弁護士と児童家庭局、検察の主張は一見対立しているようだが、彼らの主張を次から次へと眺めていくうちに、皆が子供と親の幸せを願っていることが分かっていくのだ。

 

問題となるのは、何がその「幸せ」にあたるかという点だ。その点では、原則的に実の親子関係の再構築が重要視されている。そこで子供と暮らす意志のある親には、裁判所の介入がなくても自立した子育てができるよう、行政から福祉サービスが提供される。親に適切な支援を与えることは、児童家庭局の義務なのだ。しかし一方で、子供の心身の安定と大人との愛着関係の構築はより重要な課題とされている。子供に注がれる愛情の点で、実の親が里親よりも優れているなどということはできない。

審議を進めていく中で、実親や里親、ケースワーカーたちの言葉には、もちろん悔しさや悲しみが滲む。しかしそれでも、最善の判断を下すために理性的に、客観的に、話し合いが進められていく。子供と家族の幸福を願い発せられる言葉の中には、誰かを罰するものはない。

実親たちが語る子供への愛情や努力がどのくらい信頼に値するものであるか、我々にはもちろん、法廷にいる彼らにも判断は厳しい。しかし、人間の可能性を信じるという根本姿勢は揺らがない。判事は親の成長や努力にその都度敬意を表し、彼らの立場を認める。事実だけでなく感情にまでも丁寧に耳を傾け、必ず最後まで当事者に語らせる。そしていかなる結果が導き出されようとも、子供、親、里親、それぞれに向けられる判事の言葉には、彼らが常に可能性の中に生き、努力することができるという人間性への敬意が込められている。

本ドキュメンタリーは、合理的に最善の判断を下すという裁判所の使命と同時に、人間の感情や意志といった合理的な法手続きの外側にあるものを捉えている。2時間弱、法廷内の審理のみにひたすらカメラを向けた作品だが、そこに映し出されるのが対立や分断だけではないという点に胸を打たれた。

監督のアントニオ・メンデス・エスパルサはスペイン出身。初長編作品『ヒア・アンド・ゼア』(2012)はカンヌでプレミア上映され、批評家週間作品賞に輝いている。さらに、サンセバスチャン映画祭コンペティション部門でFIPRESCI賞を獲得した前作『ライフ・アンド・ナッシング・モア』では、実質的に両親がいない孤独な黒人少年を描いた。本作はその状況を司法関係者に取材していた流れで制作されたものであり、こちらもサンセバスチャン映画祭コンペティションに選出されている。
本作は11/20~12/13に、ラテンビート映画祭にてオンライン上映が予定されている。

 

《作品情報》
英題:Courtroom 3H/スペイン、アメリカ/2020/カラー/115分/英語
脚本・監督・編集:アントニオ・メンデス・エスパルサ
プロデューサー :ペドロ・エルナンデス・サントス
撮影・編集   :サンティアゴ・オビエド

 

小野花菜 現在文学部に在籍している大学3年生です。趣味は映画と海外ドラマ、知らない街を歩くこと。