2019年10月18日(土)からテアトル新宿にて太田信吾監督「解放区」が上映されます。
撮影が終わったのが2014年。もともと助成金をもらって映画の制作が行われていたのですが、映画完成後、内容に対して”戦後初の検閲と言っても過言ではない”修正指示を大阪市より受け、この映画は自主制作映画として歩み始めました。
今まではわずかな上映の機会しかなかった今作ですが、5年の時を経て公開されることとなります。

実は私は約6年前、2013年10月から解放区の制作に携わっていました。当時は大学4年生。助監督を務めていた友人より声がかかり、参加しました。クレジットは「録音助手」ですがそれ以外にも多くの仕事を担当。今回は私の体験も交えつつ、紹介をさせていただきます。

ストーリー

先輩ディレクターとの理不尽な上下関係、制作時の被写体との接し方に疑問を持ちながらも、小さな映像制作 会社で働きながらドキュメンタリー作家になる事を夢見るスヤマ。未だその途中にありながらも、夢を語り理解を 示してくれる恋人もいる。ある日、取材現場での先輩の姿勢に憤りを爆発させてしまうスヤマ。やがて仕事での 居場所を無くした彼は、自らの新たな居場所を探すかのように、かつて希望を見失った少年を撮影したことの ある釜ヶ崎へ向かう。しかし、1人で問題に向き合えないスヤマは、東京で取材した引きこもりの青年を呼びつ けたり、行きずりの女性に愛を語ったりと切実さに欠ける取材を続ける。少年を探しながら街をさまよう日々。 やがて、自らの甘さがもたらした結果から、スヤマは一歩また一歩と道を踏み外し始めるのだった――

監督プロフィール

太田信吾(おおた・しんご) 1985年生まれ。長野県出身。大学卒業後、映画監督・俳優としての活動を開始。映画『卒業』がイメージフォーラ ムフェスティバル2010優秀賞・観客賞を受賞。初の長編ドキュメンタリー映画となる『わたしたちに許された特別 な時間の終わり』が山形国際ドキュメンタリー映画際2013で公開後、世界12カ国で配給される。

ここからスタッフとして参加させていただいた私が、当時を思い出しながら印象に残っていることを書きます。

東京編の撮影

この映画の撮影は、東京と大阪の2箇所で行われました。当初は確か東京と大阪の素材を半々程度で使用する予定だったかと思います。しかし大阪での撮影が作品を大きく変貌させることとなり、多くの東京素材は使用されることはありませんでした。特に”大阪の設定だけれども東京で撮影した素材”はバッサリとカットされました。当初想像していたよりも西成での生活感、リアリティが想像を超えていたからです。
カットされたことは少し残念ではありましたが、画面を見てみると明らかにフレームに込められた力が違いました。是非その画面を見てください!

編集素材の同期

通常映画を作る際、映像と音は別々に収録され、編集段階で同期作業が行われます。
この作業も私が行ったのですが、これが大変で大変で…今思い出してもあの頃の記憶が蘇ってきます。
といいますのも、大阪編は多い時で3~4台のカメラが同時収録を行い、かつ録音素材も複雑に絡み合っていました。しかもカチンコが映っていない!さらに別々の場所で収録が開始され、それが1カットの間に登場人物が移動することで最終的に1箇所に集まるというアクロバティックな撮影までされており、中には途中で1回収録が止まってまた再開している機材もあったのです!スクリプターなんてもちろんありませんでしたので、全ての素材からなんとか聞こえる人の声を頼りに繋いでいきました。
きっとそのシーンを見ると「あ、ここが同時収録していた部分だな」とわかると思います。そのときは少しだけこの作業のことも思い出してもらえると嬉しいです…。

大阪での追加撮影

私は大阪編のメインの撮影には参加しなかったのですが、一度だけ西成での追加撮影に同行しました。追加撮影は2014年1月2〜4日、西成の「三角公園」という場所で行われた「釜ヶ崎越冬闘争」という音楽イベントを撮影するというものでした。そのとき初めて西成に足を踏み入れたのですが、入った瞬間にまるで別世界に着いたかのような衝撃に圧倒されました。そしてそんな異世界に普通に入っていって、撮影をしていく他のスタッフの方々を見て、この映画が本当に西成の今を写し取ったものになっているのだと確信しました。
そしてこの映画は何度か西成でも上映がされており、その際にも多くの共感の声を得ています。

「解放区」の思い出については書いても書ききれない程、多くのことがありました。
それだけに私自身多くの方に見ていただきたい作品です。10月からの上映、是非どうぞ!

監督・脚本・編集:太田信吾
撮影監督:岸健太朗
録音:落合諒磨
制作:金子祐史
音楽 : abirdwhale、Kakinoki Masato
助監督:島田雄史
制作助手・小道具:坂田秋葉
録音助手:髙橋壮太
制作応援:荒金蔵人
現地コーディネーター:鈴木日出海、朝倉太郎
撮影助手:鈴木宏侑
エンディングテーマ:ILL 西成 BLUES-GEEK REMIX-/SHINGO★西成
(作詞:SHINGO★西成/作曲:DJ TAIKI a.k.a. GEEK)
出演:太田信吾、本山大、山口遥、琥珀うた、佐藤亮、岸健太朗、KURA、朝倉太郎、鈴木宏侑、籾山昌徳、本山純子、青山雅史、ダンシング義隆&THE ロックンロールフォーエバー、SHINGO★西成 ほか
製作:トリクスタ 制作:プロダクション::トリクスタ、ハイドロブライト
『解放区』上映委員会(トリクスタ+キングレコード+スペースシャワーネットワーク)
2014年/日本/カラー/ビスタ/111分/DCP/映倫審査前/英語字幕付き上映/英題:Fragile
配給:SPACE SHOWHER FILMS

髙橋壮太
映画にまつわる色々なことをしています。今はセルビアのスボティツァという小さな街にいてこっそりと自主制作映画を作っています。そこにいる人達と一緒に映画を作れないか画策中です。