『ギャスパール、結婚式へ行く』 
コメディ、103分
監督:アントニー・コルディエ
主演:マリーナ・フォイス、フェリックス・モナティ、ギヨーム・グイ、レティシア・ドッシュ
フランス公開:2018年1月31日

あれ?何かがおかしい…と気づいたのは開始10分後。ギャスパールが実家である動物園で、数時間前に自分の”恋人役”として選んだ女性ローラに「母は虎に殺された」とさらりと言ってのける。

それまでの10分間の間に起こることといえば、友人に会いにビアリッツへ向かう道中のローラは食べ物につられ全く無関係の抗議活動に参加し、そこから救い出してくれたギャスパールに連れられ全く行き先の異なる列車に乗り込み、列車の出発に狼狽えるところを、一緒に実家に来てくれないかとギャスパールに懇願され、恋人役として実家まで来てしまう、という急展開。合間にフランスの田舎をゆっくりとなめる牧歌的な映像のせいか、フィクション特有の”よくできた話”的胡散臭さは感じられない。また、自分たちの異質な行動をなんとも思っていないような2人の様子に、何か引っかかる感覚を覚えたのだ。

ギャスパールは都会に出てエレベーターの修理工として働く25歳の青年。父親が再婚することになり、結婚式のために久しぶりに実家に帰ることになり、その道中でローラと出会う。長いこと疎遠だったギャスパールは、家族との久々の対面が不安だったのか初対面の女性に恋人のふりをしてついてきてもらうのだ。

そこからの物語は、ギャスパールの実家である動物園を舞台として進行する家族ドラマだ。「すばらしい環境ね。」とローラが言うように、動物園で育ったらどんな大人になるのだろう、とふと考えてします。ある意味、その答えのひとつがこの家族なのだ。真面目で責任感の強い兄、自分を熊だと思い込んでいる美しい妹、繊細で女性関係にだらしのない父。動物園を切り盛りするこの一家には独特のコミュニケーションがある。私たちは”部外者”であるローラを通して、その家族の特異性を見つめることになる。

まず不思議に思うのは、久しぶりの再会でもギャスパールの近況を尋ねる者はいないということ。ギャスパールもまるでずっとそこに住んでいたかのように、すぐに動物園の仕事を手伝いはじめる。ローラについても特に気にしていない風だ。それに対して、お互いの身体的距離感はとても近い。言葉よりも身体的・感覚的なコミュニケーションが目立ち、とても動物的だということに気づく。これは、動物園という背景に対して、クローズアップされるのがいつも動物ではなく人間であるところからも強く感じられる。ギャスパールが怪我したコリーヌの傷口を舐める動作。ローラの膝の裏の匂いを嗅ぐ動作。いずれも動物的でいて、官能的。官能ってそういうことだよなぁ、なんて考える。

そして特にそれが顕著なのが、妹のコリーヌだ。昔飼っていた熊の毛皮を年中着て、森の中で木の蜜を舐めたり、冬には冬眠の真似ごとをしたりと、熊として振舞っている。また、兄であるギャスパールを愛するコリーヌは、ローラへの嫉妬からギャスパールへの身体的接触を見せつけて敵対するし、動物的な勘で2人の関係をいち早く疑い始める。コリーヌ役を演じるのはクリスタ・テレ。東京国際映画祭で観たアサイアス監督の最新作『ノン・フィクション』では知的でクールな女性を演じていたが、今回はうって変わって野性味溢れる嫉妬深い妹役。ローラ役は昨年公開の『若い女』でもくせ者のヒロインを演じ、リュミエール賞最有望女優賞も受賞したレティシア・ドッシュ。この2人が物語の中心と言っていいほど、実はギャスパールの存在はひっそりとしている。(笑)とはいうものの、物語をつなぐ中心にあるのはギャスパールにちがいない。

たまに挿入される彼の幼少期の映像では、彼の”発明家”としての才能が紹介される。パラシュート付きコルクや迷子にならない靴、2人で吸うタバコなど、子どもらしい純粋さと着想のセンスに脱帽させられる数々の発明品は、彼の家族に対する愛情そのもののようだ。家族もそれを享受し、現在でも日常的に使われている。しかし、それには愛情と同時に、彼が他の家族とは少し違ったことも読み取れる。動物という側面の中で、発明品、つまり道具とは”人”の象徴である。そこに興味を示したギャスパールが、家族から離れ都会に向かったのも理解ができる。家族への愛情、そしてみんなとは少し違う自分。その2面性がこの家族ドラマの中心にあるのだろう。

全部見終わってみて、やはり人間は動物なんだなぁと思う。お互いに触れ合い、”嗅覚”で理解し合う。そうすると冒頭の急展開も納得できて、2人は結局のところ、動物的な嗅覚でお互いに好意を抱いていたのだろう。

この作品を含め、映画祭では8本の長編映画に加え、多数の短編映画も配信中!

【第9回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間:2019年1月18日〜2月18日
料金:長編-有料(料金は各配信サイトの規定による)
短編(60分以下)-無料
配信サイト:iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix
、MUBI、青山シアター、Uplink Cloud、U-NEXT、Beauties、VideoMarket 、ビデックスJP、GYAO !、ぷれシネ、Rakuten TV(短編のみ)、ほか
*配信サイトにより、配信作品、配信期間が異なります。配信サイトは変更、追加になることがあります。

公式サイト:​www.myfrenchfilmfestival.com

主催:ユニフランス

荒木 彩可
九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。