親友に嫉妬する恋人と喧嘩をし、眠れない夜はお皿いっぱいのスパゲッティを食べて、大きなお腹で足のつま先に手が届かなければ、細い棒の先端にマニキュアを突き刺して塗る。これは代理母として子どもを産む決断をした、ある一人の女性の物語である。





ディアーヌの親友であるトマとジャックは子どもを望む同性カップル。彼らのために代理母となることを迷わず引き受けたディアーヌの妊娠3ヶ月目のとある一日から物語は幕を開ける。そんなある日、妊娠中の彼女はファブリツィオという男に出会い、恋に落ちてしまう。



恋人に習った中国武術の意挙を庭でしたり、子どもに聴かせてくれと託された古びたポップスを顔をしかめながらも流して聴かせる彼女は、お腹が膨らみ始めても、壁をハンマーで打ち壊すくらいにはタフな女で、見ていてとても清々しい。(力んじゃって大丈夫なのかと心配になったりもするけれど)。そんな彼女の、自由にのびのびと生きる軽やかさを見ていると、誰もが一瞬は彼女に恋に落ちてしまうだろう。



一方でディアーヌを取り囲む男性たちは愛らしくもなんだか不器用。トマとジャックはディアーヌを過剰に心配し(それはディアーヌとお腹の子供への愛ゆえなのだが)、ファブリツィオは嫉妬ゆえなのか二人を家から追い出してしまったり、ディアーヌの出産時自分の子どもではないことを再認識し落ち込んで突如行方をくらましてしまったりする。でもディアーヌは、怒るときは怒りながらも大きく愛し、そしてみんな丸くなっておさまってしまうのだ。





画面には丸いイメージがいたるところに散らばっています。ディアーヌの大きく膨らんだお腹、それを這うてんとう虫、燦々と照る太陽、微力な風を送る扇風機、そして彼女に身体的自由を唯一もたらすプールも丸い。(ファブリツィオのジーンズから食み出たビールっぱらも丸い!)そんな丸のイメージについて監督も次のように語ります。

「彼女のお腹が大きくなればなるほど、彼女を取り囲む丸が増えていきます。彼女がリフォームしようとするその家も丸いんです。」*



また、ディアーヌの身体描写やそのキャラクターにこだわりを持ったと語る監督。ディアーヌの自由で独立した身体が妊娠によってその自由を妨げられる、その変化のダイナミクさが不可欠だったことを強調し、彼女の魅力を語ります。

「ディアーヌは、自立した女性の凛々しさとティーンエイジャーのようなあどけなさのどちらも持ち合わせているように、ロメールの映画に出てくるヒロインと、リドリー・スコットの『エイリアン』のヒロインの、丁度中間くらいにいるんです。」*



灼熱の太陽による暑さがディアーヌを苦しめる常夏、ファブリツィオが彼女のために用意してくれたプールにディアーヌが心から感激して水を浴びるシーンがあるのですが、そのシーンの美しさはずっと見ていたいと思うほど。お腹が膨らみ大きくなるにつれて自由に動き回る彼女の姿は見られなくなるけれど、彼女は水の中で自由を得て、まるで生き返ったようにぐんぐんと体を伸ばします。誰にも好きなシーンが必ずや1つはあるはず。



ブルターニュ育ちで、チャップリンやキートン、ジャック・タチを影響を受けたと語る監督のファビアン・ゴルジュアール監督は、2007年『COMME UN CHIEN DANS UNE ÉGLISE』に始まり、2009年から2016年にかけて4本の短編映画作品を撮っており、今回出品された『ディアーヌならできる(DIANE A LES ÉPAULES)』は監督にとって初の長編映画作品だという。草木の囁きなど自然の煌めき、騒々しくも爽快な都会の風景、女性の妊娠や出産、同性愛カップルと子どもなど、様々な断片を散りばめながらも、確実にわたしたちの日常に地続きした一つの物語として、コミカルなタッチで優しく描き出した今作。今後の活躍にも期待したいフランスの映画監督の一人です。



* 公式HP掲載プレスキットより(https://www.myfrenchfilmfestival.com/ja/movie?movie=43192)





『ディアーヌならできる(原題:DIANE A LES ÉPAULES)』 コメディ、87分
監督:ファビアン・ゴルジュアール
主演:クロチルド・エスム(『ショコラ ~君がいて、 僕がいる~』 )、ファブリツィオ・ロンジオン
フランス公開:2017年11月15日













この作品を含め、映画祭では8本の長編映画に加え、多数の短編映画も配信中!

【第9回 マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル】
開催期間『2019年1月18日~2月18日
料金:長編ー有料(料金は各配信サイトの規定による)、短編(60分以下)ー無料
配信サイト:iTunes、Google Play、Microsoft Store、Amazon Instant Video、Pantaflix、MUBI、青山シアター、Uplink Cloud、U-NEXT、Beauties、VideoMarket 、ビデックスJP、GYAO !、ぷれシネ、Rakuten TV(短編のみ)、ほか
* 配信サイトにより、配信作品、配信期間が異なります。配信サイトは変更、追加になることがあります。
公式サイト:www.myfrenchfilmfestival.com



三浦珠青
早稲田大学文化構想学部4年生。熊本育ちの十一月生まれ。趣味は映画と読書と銭湯。